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学校と社会をつなぐ調査最終調査直前イベント

実施レポート(2):基調講演

これからの社会に必要な力とは?~非認知能力が“私たち”を育ててくれた~

吉野明先生

大妻多摩中学高等学校アドバイザー(前・鷗友学園女子中学高等学校校長)の吉野明先生の基調講演は、「これからの社会に必要な力とは?~非認知能力が“私たち”を育ててくれた~」をテーマに、これからの学校として非認知能力を育てていくことの必要性と、鷗友学園でのさまざまな取り組みが紹介された。

吉野 明 先生
大妻多摩中学高等学校アドバイザー
(前・鷗友学園女子中学高等学校校長)

非認知能力の育成、先生からのフィードバックが鍵

20~24歳の自己肯定感の国際比較では、欧米や韓国が70~80%程度であるのに対して日本はわずか37.4%しかない。自分で国や社会を変えられると考えている18歳は、日本ではわずか18.3%(日本以外で最も低い韓国は39.6%、最も高いインドは83.4%)。

こうした日本の若者の意識をもたらしているのは何か。それは、大人の都合で「良い子」「悪い子」を区分けし、親が作った枠組みから踏み出すことなく自己形成していく。その結果として自己肯定感・自己管理能力の低下をもたらしているのではないか、と吉野先生は投げかける。そしてポール・タフの学習のための積み木を紹介しつつ、「悪い子」と目される子どもに集中力や作業記憶、認識力が育っていないのは幼少期の出来事のせいかもしれないだけで、そういった子どもたちに先生が高い期待を示すフィードバック(声かけ)をすることで、子どもたちの積極性や成績は大きく改善するということを、アメリカにおける白人とアフリカ系アメリカ人の生徒たちとの対比を示しながら指摘する。これは非認知能力の育成への先生たちの関与の重要性を示しているのである。

非認知能力とは、基礎学力など認知能力以外のすべての能力のことだ。認知能力がテスト等で測定可能であるのに対して、非認知能力は統一的な測定方法が確立されていない。ただ、非認知能力が高いと認知能力は高くなるが、認知能力が高くても非認知能力は高くならないことは分かっている。

OECDでも、学校での生徒の幸福(Well-being)に非認知能力が大きく関与し、主体性の原動力だと考えられている。また、日本では、「学力の3要素」は「主体性・多様性・協働性」という非認知能力が前提となって、「思考力・判断力・表現力」を身につけ、最後に「知識・技能」を高めると読めたものが、新学習指導要領では「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」を身につけて、どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか、それが「学びに向かう力・人間性」という非認知能力であるといった、逆のベクトルになっているように思える、と吉野先生は提起する。

そして、非認知能力を育てるためにも、「教える」から「学ぶ」へのパラダイムチェンジが必要であること、「教える」というパラダイムでは、評価は評点(Evaluation)になりがちだったが、「学ぶ」パラダイムでは生徒一人ひとりの学習の成立を促すための評価(Assessment)へとチェンジしていくべきことが語られた。

生徒の自己肯定感を伸ばす、鷗友学園の取り組み

そして非認知能力の育成という視点から、鷗友学園での取り組みが紹介される。例えば、合科として園芸=労働に取り組み、そのことを生物という学問で理解し、収穫して調理することで家庭や生活に結びつけ、学ぶ目的を意識する。3日に1回の席替えを通じてクラス全員と顔なじみになり、自分が安心できる居場所ができ、自尊感情を高める。アサーショントレーニングを通じて、自己も相手も大切にした自己表現を身につけるなどである。

そこに一貫しているのは、生徒の自己肯定感を伸ばしていこうという目的意識である。そのために進路指導部の先生が提唱して相談室を開設したり、生徒が自信をもち、自ら考えて取り組みやすいよう、カリキュラム改編まで行っている。例えば、女子は数理的抽象化能力が男子より遅れて伸びる傾向があるため、中1の理科は生物分野だけとして実物に触れる授業を出発点とすることで、結果的に理科への関心が高まり、高校2年次の物理選択者が全生徒の2/3~3/4にもなっている。

生徒タイプから見た個別の高校の実態
生徒タイプから見た個別の高校の実態

こうした取り組みの成果は、学校と社会をつなぐ調査の高校2年時の結果においても表れている。鷗友学園は「勉学タイプ」が50.2%で、全国平均の25.1%の2倍となっている。さらにこの「勉学タイプ」の生徒の81.4%が部活動と「両立している」と回答しており、この数値も他の大学進学グループに属する高校と比較すると圧倒的に高い結果となっている。

基調講演後の溝上先生との対話では、どうして鷗友学園がこのような非認知能力育成に取り組むことになったのかについて、吉野先生は次のように説明した。

1980年代、鷗友学園は偏差値30台と非常に低く、生徒が集まらなかった。生徒を増やすためには、特進クラスを作って進学実績を上げることが近道だが、そうすると必ず成績が上がらない生徒群との「ふたこぶラクダ現象」が生じる。そうした方向ではなく、生徒を「まるごと一人の私」として引き受け育てていくべきであり、そのためには教師中心主義、教科中心主義に陥らず、学習者中心主義で行くべきだという議論を、校内で侃侃諤諤と繰り広げ、今の学校の在り方を築いてきたことが語られた。


※所属・役職は開催当時のもの

※このページは日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)によって制作されました。

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