学校と社会をつなぐ調査最終調査直前イベント
実施レポート(3):調査分析報告
まず、溝上先生によるこれまでの調査結果の概観、続いて、SES、ジェンダー、地域移動といった社会学的な変数についての分析結果が報告された。これらは、高校2年時に分析結果から、さらに大学生活に影響があるのかを追加分析したものである。高校2年時の調査分析も担当した、神田外語大学講師の知念渉先生と立命館大学教授の柏木智子先生が報告した。
溝上先生:どんな高校生が大学で成長するのか。資質・能力は“大化け”しない
高校2年生対象の2013年度調査では、高校生を、学習・生活の状況に応じて「勉学」「勉学ほどほど」「部活動」「交友通信」「読書傾向」「ゲーム傾向」「行事不参加」の7つのタイプに分類した。このうち、授業外学習時間が比較的長い「勉学」「勉学ほどほど」タイプはキャリア意識が高い。一方で、一人で行動しがちな「読書傾向」「ゲーム傾向」「行事不参加」タイプはキャリア意識が低い。このことが、大学で学び成長することと関係していると説明する。
ただ、高校から大学へ移行する間、資質・能力に大きな変化は見られなかったという。「他者理解力」「計画実行力」「コミュニケーション・リーダーシップ力」「社会文化探究心」などの能力について高・中・低の3クラスに分けて大学4年まで追跡したところ、低いものは低く、高いものは高いままで、そのポジションは交差しない。「アクティブラーニング(外化)する態度や能力の変化」は、大学1~4年の間で、低クラスから高・中クラスへ伸びる学生、あるいは低クラスから低低クラスに下がる学生がいるが、合計しても20数%程度。クラスに変化のない人が残りの75%以上を占めている。
アクティブラーニング(外化)する態度や能力の変化
このような傾向は、将来の見通しなど「二つのライフ」との関係でも同様であったが、学生が大学で全く成長しないわけではない。個人としては成長しているものの、クラスが変化するほどの”大化け”はしないのだと補足した。
知念先生:SESとジェンダーは、大学の入口と出口に影響する
知念先生からは、①大学生活の入り口、②4年間の大学生活、③大学生活の出口について、SES(Social Economic Status:家庭の社会経済的背景)とジェンダーによる影響の分析である。
まず、SESについて、両親の学歴と世帯年収から高・中・低の3グループに分割すると、概ねSES高は両親大卒、SES中は両親のどちらかが大卒、SES低は両親とも非大卒となった。この分類を元に大学4年間における資質・能力の変化を見る。「他者理解力」は、男女別では女性が高く、SES低グループの男性の伸び率が高い。「計画実行力」は平均的に女性が男性よりも高いが、特にSES高グループの男性は大学1年時に低下することが目立つ。「コミュニケーション・リーダーシップ力」は全体的に伸びており、特にSES低グループの男性の伸びが顕著である。これらのデータを回帰分析にかけると、女性はどの資質・能力でも伸びており、男性はSES低グループで伸びる傾向が読み取れる。
SESと大学4年間における資質・能力の変化
しかしSESはこのような資質・能力の変化よりも、大学入学や進学への影響が大きかった。SES高グループは入学難易度の高い大学へ、SES低グループは入学難易度の低い大学へ進学する傾向が強い。さらに、大学院・医学部への進学も、SES高グループの方が進学しやすいことが分かったと話す。
総じて、SESとジェンダーの影響は、②大学生活での意識、資質・能力では見られないが、①での入学難易度や③の進学では強固に存在すると報告。特に女性では、資質・能力が高いにもかかわらず、大きな不利を抱えているのではないか、と指摘した。
柏木先生:資質・能力の伸びには地域移動の影響はない。大学も学びを保障
柏木先生の追加分析は、トランジションと地域移動の関係についてである。
まず、地域移動について、高校生時の居住地を、都市圏(三大都市圏)と地方圏(三大都市圏以外)に分けると、都市圏では約8割が移動せず、地方圏では67%が移動すること、地方圏では「移動なし」「地方圏→地方圏」「地方圏→都市圏」の割合が、いずれも約3分の1ずつに分かれている等の分析が紹介された。そして、性別や生徒タイプ、ソーシャルキャピタル(社会的なつながり)と地域移動の関連等の分析が報告された。
地域移動では、地方圏の生徒の方が移動しやすく、都市圏・地方圏とも女性より男性の方が移動しやすいという傾向がある。また、生徒タイプでは「勉学」タイプが移動しやすく、「交友通信」「行事不参加」タイプが移動しにくい傾向があるという。さらに、大学進学の理由として経済的な理由を挙げた生徒は移動しない傾向にあること、移動先に安心できる父や兄弟がいる場合の方が移動しやすいことなどが報告された。
地方圏居住者:生徒タイプ×地域移動
次に、ソーシャルキャピタルに注目すると、地域移動した学生は、移動しない学生よりも部活・サークルの友人と安心できる関係を築いていることが読み取れる。大学1年時で安心できる人は母親と小中高時代の友人が7割強である一方で、今の学校(大学)の教職員は1割未満と頼りにされておらず、大学の在り方の見直しが必要ではないかと指摘する。
学生(大学1年時)のソーシャルキャピタル
また、「地方圏→地方圏」移動の学生の方が、地元にとどまった学生よりも充実した学生生活を送っているが、これには地域移動の結果というよりも、SESが高く男性であることが正の影響を与えているという。
最後に、大学生の資質・能力の伸長には地域移動による影響は見られず、大学1年から4年に向かって伸びており、このことは日本の大学が地域格差の生じにくい学びを保障していると考えられるとの見方を示した。
※所属・役職は開催当時のもの
※このページは日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)によって制作されました。