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「私と河合塾」-OB・OGが語る河合塾-: Vol.13 (2009年5月公開)

  • 弁護士・公認会計士・税理士
  • 高校グリーンコース
  • 大学受験科
弁護士 熊谷 則一さん

河合塾の授業やフェロー制度を活用して<br />身につけた論理的読解力・思考力が<br />司法試験の勉強にも大いに役立ちました。

  • 涼風法律事務所
    弁護士

    熊谷 則一さん

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チューターと接して「あんな大学生になりたい」と思ったことが受験勉強の原動力に

・・どんな高校時代を過ごされたのですか。

中高一貫校(栄光学園)に通っていた私は、高校受験がないのをいいことに、趣味中心で、勉強は「ほどほど」の生活を続けていました。小学生の頃から「天文」少年でしたし、テレビやラジオの音楽番組にも夢中で、『オリコン』を毎週買っていました。高校2年生に進級するとき、あまりにものんびりしている私を心配した先輩が、自分も通っていた河合塾駒場校(現:本郷校)の高校グリーンコースを勧めてくれたのが、河合塾と関わるきっかけでした。まったく勉強していませんでしたから、学力別に3クラスに分かれていた一番下のクラスからスタート。その後、徐々に成績はアップしましたが、高校3年生の東大入試オープン(現:東大即応オープン)では、2回ともD判定でした。

・・河合塾時代の思い出を聞かせてください。

大学生によるチューター(進学アドバイザー)制度が設けられている点が魅力的でしたね。東大生が多く、まだ遠い存在であった「東大」を身近に感じることができました。チューター自身の体験に基づいたアドバイスはとても有意義でしたし、授業が終わった後もよく相談に行き、丁寧に対応していただきました。また、東大の入試日の前日には、思いがけずチューターから「明日、頑張れよ」という激励の電話を受け、見守ってくれている人がいるのだなと、心強く感じたことを覚えています。「ここまで他人に対して親身になれるのはすごい。あんな大学生になりたい」と思ったことが、私の受験勉強の原動力になった気がしています。

残念ながら現役では不合格で、同じく駒場校の大学受験科に1年間通いました。この浪人時代の1年間が、私にとっては、司法試験の勉強時代を含めても、最も勉強した時期だったと思います。

・・印象に残っている授業はありますか。

現代文の高橋先生の授業ですね。それまでの私は、現代文の力を向上させるには、読書量を増やすしか対処方法はないと思い込んでいました。ところが、この授業で、文章を論理的に読み解く手法を教わり、まさに目から鱗が落ちたような感覚を味わいました。それ以来、現代文は得意になっていきました。

また、数学の松谷先生からは、解く問題数をいたずらに増やすよりも、1つの問題を徹底的に考え抜くことの方が重要だと指導されました。時間をかけてもいいから、あきらめず、粘り強く取り組むことによって、論理的思考力が鍛えられるという方針だったのだと思います。

そのほか、河合塾にはフェロー(学習アドバイザー)制度があり、政経の丸谷先生、日本史の久留島先生には、ほぼ毎週のように論述答案の添削指導をしていただきました。フェローの方々は皆、高度な専門知識を備えており、私の答案を見ながら、「こんな視点からアプローチすることもできるのだよ」と、具体的に示唆してくださり、論述力を高めることができました。そうした指導が功を奏して、浪人のときの東大入試オープンでは、成績上位者として名前が掲載されるまでになりました。しかも、受験勉強で身につけた力は、司法試験の勉強の際にも大いに役立ちました。

・・どのような意味で役立ったのですか。

法律学とは、理論をきちんと組み立てて、それを表現する能力が要求されるという意味では「論理学」でもあります。受験勉強を通して、論理的読解力・思考力が養われていたことが、司法試験の勉強にも有効だったわけです。

「他者のために働くことの喜び」を感じて公益的な仕事を志す

・・東大時代に力を入れられたことは何ですか。

さまざまな活動に参加して、自分なりに充実した4年間でした。法律系サークルに所属して学園祭で模擬裁判を行ったり、天文部で乙女高原に星の観察に出かけたり……。仲間でテーマを決めて、それに関連する本を読んで議論する読書会も開いていました。アルバイトも、家庭教師やファーストフードの店員などを経験しました。

そんな中で、最も力を入れたのが河合塾のチューターとしての活動です。受験生時代にお世話になったので、チューターになって河合塾に恩返ししたいという思いから、大学1年生から3年生までチューターを務めました。チューターには、さまざまな大学から個性的な河合塾OBが集まっており、朝まで議論したことも少なくありません。彼らとの交流はとても刺激的で、現在でもつき合いが続いています。

・・法曹の道をめざそうと考えられたのはいつ頃からですか。

実は最初から法曹をめざしていたわけではありません。河合塾でチューターの姿勢に感動し、自分自身もチューターとして活動したことから、次第に「他者のために働くことの喜び」を感じるようになっていきました。「man for others」の教育理念を掲げる栄光学園で6年間を過ごしたことも影響していると思います。そこで、公益的な仕事に携わるために、国家公務員Ⅰ種試験を受験。当時の建設省に入省しました。直属の上司が河合塾のチューター出身で、不思議な縁を感じましたね。

「より多くの人々のための」活動を続けていきたい

・・国家公務員から弁護士に転身しようと考えられた理由は何ですか。

建設省では不動産業課に配属され、ちょうど宅地建物取引業法改正の時期で、ダイナミックな動きの中で仕事ができることにやり甲斐を感じました。けれども、そのうちに、国家公務員にとってクライアントは国民なのですが、仕事をしていても、その国民の顔が直接見えないことに物足りなさを感じるようになったのです。今にして思えば、与えられた仕事をこなすのに手一杯の1年生官僚に国民の顔が見えるはずもないわけですが、当時の私はそれに気づかず、もっとクライアントの顔が見える仕事がしたいという思いが募り、1年で建設省を辞して、司法試験をめざすことにしたのです。

・・司法試験合格をめざして、どのような勉強方法をとられたのですか。

自習の他、司法試験予備校には答案練習にせいぜい週に一回通う程度で、受験仲間との勉強会に重きを置いていました。なぜなら、法律解釈の分かれ目は暗記すればすむものではなく、なぜそうなるのかを思考し納得しなければ理解することはできないからです。その思考力を深めるには、仲間との議論が最も有効でした。そうした勉強を続けて、2年後の司法試験に合格することができました。

・・現在、弁護士としてどのような活動に力を入れていらっしゃいますか。

修行時代には、企業法務、刑事事件、少年事件、離婚事件など、多様な分野の業務を経験しましたが、独立した現在は「不動産業者のコンプライアンス(法令遵守)」「公益法人改革」の2つの分野を柱にしています。まったく異なる分野に感じられるかもしれませんが、私の中では「より多くの人々のための仕事」という意味で一貫しています。たとえば、不動産業者が介在する「住」は人々の重要な生活基盤です。不動産業者が法令を遵守しないと、夢を抱いて購入したマイホームが欠陥だらけだったりなど、深刻な打撃を受けることもあります。そうした悪夢を未然に防ぐために、不動産業者のコンプライアンスの問題に積極的に取り組んでいます。また、現在、明治時代に民法が制定されて以来、初めての公益法人制度改革が行われており、非営利な活動、公益的な活動が促進されようとしています。お金さえ稼げればいい、勝ち組になりさえすればいいという社会ではなく、多くの人々が自発的に非営利な活動、公益のための活動を行おうとする社会になることが、皆が笑顔になれる社会につながると、私は確信しており、そうした活動を積極的に応援していきたいと考えています。

・・河合塾で学んだことが、現在の活動に役立っている面はありますか。

先ほど申し上げたように、私にとっては、河合塾でチューターと接し、自分自身もチューターを務めたことが、より多くの人々のための仕事をしたいという思いにつながっています。少し大げさにいうと、河合塾で学んでいなければ、今の私はなかった気がします。

また、現在、年間に50回ほどの法律の講演依頼を受けていますが、チューターとして、大勢の塾生の前に立ち話をした経験も役立っていますね。

・・最後に、河合塾の後輩たちへのメッセージをお願いします。

受験勉強をしている真っ最中は、「こんな勉強にどんな意味があるのだろう」と思うこともあるでしょう。けれども、今、私が痛感しているのは、これまで経験したすべてのことが現在につながっているということです。現在はきっと未来の伏線になっていますから、皆さんにはぜひ「今、一生懸命である自分」を未来につなげてほしいと思います。皆さんの健闘を祈っています。

Profile

熊谷 則一 (Norikazu Kumagai)

熊谷 則一(Norikazu  Kumagai)

1964年神奈川県生まれ。栄光学園に通う。高校2年生から河合塾駒場校グリーンコースに通い、大学受験科を経て、1984年東京大学に入学。1988年法学部卒業後、建設省に入省。司法修習生を経て、1994年に弁護士登録し、2007年涼風法律事務所を開設。現在は「不動産業者のコンプライアンス」「公益法人改革」の2つの分野を中心に活躍中。関連著書多数。近著:『公益法人の基礎知識』日本経済新聞出版(2009年5月発売予定)

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