「私と河合塾」-OB・OGが語る河合塾-: Vol.37 (2011年7月公開)
- 教育・研究者
- スポーツ関連
- 専門学校トライデント
「失敗が許される環境」をつくり<br />チャレンジを恐れない子どもを育てる<br />指導を心がけています
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名古屋グランパス
育成普及部 スクールコーチ鬼木 遥平さん
- 出身コース
- トライデントスポーツ医療看護専門学校
「心理学」の授業で学んだことをサッカーの指導に活用
・・サッカーを始めたのはいつ頃からですか。
3歳から始めました。通っていた幼稚園の隣に「幼児体育育成協会 BIGスポーツクラブ」があり、子どもたちがサッカーを楽しんでいました。それを見て、自分でもやりたいと思ったのがきっかけです。
・・トライデントに入学しようと考えた理由を聞かせてください。
中学、高校とサッカーを続け、サッカーのない生活は考えられないような毎日でした。ポジションはいわゆる「トップ下」です。もっとも、私立の強豪校がひしめく東京都では、私が在籍していた都立広尾高校は都大会に出場するのがやっとの状況でした。そんな中で、選手としては超一流ではないけれども、指導者としてならトップをめざせるのではないか。そんな夢を抱くようになりました。そのためには、大学に4年間通うよりも、将来に直結する実践的な学びが可能な専門学校に進むほうがいいと考えたのです。
・・実際にトライデントに入学して、印象はいかがでしたか。
予想していたよりも、幅広い分野の授業が開講されていましたが、いずれもサッカーに置き換えて考えることができました。特に私が興味を持ったのが「心理学」の授業です。
・・サッカーにおける「心理学」とはどのようなものでしょうか。
私は、サッカーで大切なのは「勝者のメンタリティー」だと思っています。ただし、その日の勝敗だけで、勝者と敗者にわかれるわけではありません。結果を次に生かそうとするポジティブな意識が大切になります。結果に一喜一憂せず、勝負する気持ちを持ち続けること、それこそが本当の「勝者のメンタリティー」なのです。子どもたちにサッカーを教える立場になった現在も、そのメンタリティーを教えるように心がけています。
また、心理学には「トライ&エラー」という用語があります。逆境や失敗を恐れず、試行錯誤するなかからチャンスが生まれるという意味です。現在、私が最も配慮しているのは、普段の練習や試合において「失敗が許される環境、雰囲気」をつくることです。それがなければ、子どもたちにチャレンジしようという姿勢が失われてしまうからです。こうしてみると、トライデントの「心理学」の授業で学んだことを、自分なりに消化して、指導に活用していることがわかります。
第一線で活躍中の先生の教えが大きな刺激に
・・そのほか、印象に残っている授業はありますか。
第一線の指導者として活躍されている先生に教えていただいたことが貴重な経験になりました。その一人が池内豊先生です。元Jリーガーで、引退されてからは、U-15、U-17など、ユース年代の日本代表監督を歴任されています。池内先生がよく熱く語っていらっしゃったのは、「サッカーの指導者は皆、日本代表チームが強くなるためにはどうしたらいいか、常に考えていなければいけない。子どもたちの指導者であっても、日本代表を強くするための一翼を担っているという高い志を持って、取り組まなければならない」ということです。この言葉は大いに刺激になりました。現在も、子どもたちを指導する際に、そうした意識を忘れないようにしています。
・・サッカーの指導者になるための実践的な授業も多かったのでしょうか。
もちろん、ジュニア対象の練習メニューを考案したりなど、指導に直結する授業も豊富でした。また、1年次後期からの1年半、名古屋グランパスのジュニアスクールで、アシスタントコーチとして研修を経験することもできました。研修生の立場ですが、胸に同じエンブレムをつけ、チームの一員として活動することができたので、とても嬉しかったですね。
この研修では、実際に小学生の選手と触れ合うことで、さまざまな課題が見えてきました。それまでの私は、コーチの仕事は、練習メニューをつくり、テクニックを教えることだと考えていました。けれども、それ以上に大切なのは、子どもがどんな考えでそのプレーを選択したのか、気持ちを引き出してあげること。そして、それを踏まえて、一人ひとりの優れているところを伸ばすことなのではないかと気づくことができました。
選手時代の実績がない指導者として、トップをめざす挑戦が続く
・・トライデントを卒業後、名古屋グランパスに入団されたのですね。
ええ。研修生時代のサッカーにかける情熱と、自分なりの意思や考えを持って指導しようという姿勢が評価してもらえたのだと思っています。とくに後者は、指導者にとって不可欠な資質だと、私は確信しています。どんなことに対しても、他人の意見を柔軟に取り入れつつ、常に自分だったらどう考えるのか、自己意識を確立しておくことが重要です。そうでなければ、周りに流されてしまい、指導にブレが生じてしまうからです。
・・現在、どのような業務を担当されているのですか。
現在、春日井スクールで5~12歳の子どもたち約120名のコーチを務めると共に、スクールの登録チームである「グランパス・三好」のU12(小6生)のコーチも兼任しています。まずは体を動かして、基礎体力をつけることと、サッカーを好きになってもらうことを重視して、指導しています。また、サッカーには年代ごとに必要な技術というものがあります。私が担当しているジュニア世代では、チーム戦術の理解よりも、“個”のスキルアップが優先されます。テクニックを磨き、それをゲームの中で着実に生かせるようになることが大切です。そのために、相手との駆け引きや、プレーを選択する判断力などを、意識的に高めるように努めています。
・・今後の目標を聞かせてください。
この世界に入ったからには、究極の目標は日本代表監督です。現在はジュニアのコーチを務めていますが、将来的には、上のカテゴリーの選手を教える経験も積みたいと考えています。選手時代の実績がない私が、どこまで成長していくことができるか、これから挑戦が続いていきます。
・・サッカーは、選手経験があまりない監督が活躍しているスポーツかもしれませんね。
そう思います。優秀な選手が必ずしも優れた指導者になれるとは限りません。選手の立場に立って、その能力を最大に引き出すこと。それが指導者に求められる能力だと思います。
トライデントの学びで、選手目線から指導者目線に転換できた
・・現在、指導されているなかで、トライデントで学んだことが役立っていると感じられることはありますか。
トライデントで学ぶまでの私は、サッカーを選手目線でしか捉えていなかった気がします。それを指導者目線のサッカーに転換することができたことが大きかったですね。単なるテクニックを学ぶのではなく、先ほど申し上げた「心理学」など、その裏付けとなる理論の勉強ができたことがよかったと思います。現在でも、「心理学」関連の本を読むなど、勉強を続けています。卒業したからといって、それで学びを終えるのではなく、学んだことを自分なりに工夫して応用し、発展させていく……これからもそんな姿勢を持ち続けていきたいと考えています。
・・トライデントの後輩たちに向けて、アドバイスをお願いします。
専門学校は、目的が明確な学生を対象とした教育の場です。それだけに、高い目標を設定して、それに向かう強い思いを持つことが大切です。先ほど申し上げたように、常に、自分ならどう考えるのかを問い続けること。つまり、「自己の確立」が求められると思います。
・・最後に、サッカーを通してどんなことが学べるのか、ジュニアスクールのコーチの立場から、保護者にメッセージをお願いします。
小学生のうちは、習ったことをそのまま覚えるだけで、自分なりの考えが育ちにくい環境にあるように感じます。その点、サッカーの試合には多様な要素がつまっています。一人ひとりに瞬時の判断力が求められますが、それを高めるためには、バックボーンとして、自分自身で考える力、他人に依存しない自主性、思いがけないプレーを生み出すオリジナリティーが必要です。それを引き出すために、私は、先ほど申し上げたように、子どもたちに「失敗が許される環境」を与えることに心を砕いています。そして、失敗に見えるプレーであっても、どんな思いでそのプレーをしたのか、必ず耳を傾けるようにしています。自分なりの考えに基づいたプレーであれば、それはけっして失敗ではなく、次につながるプレーなのです。保護者の方々にも、そうした子どもの声を聞くスタンスを大切にしてほしいと願っています。
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鬼木 遥平(Youhei Oniki)
1986年福岡県生まれ。東京都立広尾高校を卒業後、2005年河合塾学園トライデントスポーツ健康科学専門学校健康スポーツ学科サッカー指導者専攻(現トライデントスポーツ医療看護専門学校スポーツインストラクター学科サッカー専攻)に入学。2007年同専攻卒業後、名古屋グランパスに入団。育成普及部スクールコーチとして活躍中。また、サッカーB級コーチ、キッズリーダー3級審判、初級障害者スポーツ指導員、キャンプインストラクター、レクリエーションインストラクター、ジュニアスポーツ指導員、スポーツリーダー、健康運動実践指導者の資格を併せ持つ。
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