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「私と河合塾」-OB・OGが語る河合塾-: Vol.64 (2013年10月公開)

  • 教育・研究者
  • デザイン・アート関連
  • 専門学校トライデント
米国 College for Creative Studies 准教授 阿部 恭平さん

仲間とコラボレーションして<br />クリエイティブな作品を完成させる<br />楽しさに目覚めました

  • 米国 College for Creative Studies
    准教授

    阿部 恭平さん

    出身コース
    トライデント デザイン専門学校

1期生として、自分たちで伝統を創り上げていこうとする情熱にあふれていた

・・トライデントに通うようになったきっかけからお聞かせください。

小さい頃から、絵を描いたり、ものを作ったりするのが好きで、最も得意な教科は図工でした。小学生のときに絵のコンクールで文部大臣賞を受賞したこともあります。実家が農家だったこともあって、高校は自宅近くの農業高校に進みましたが、アートへの興味はずっと続き、ファッション雑誌を読みふけり、自分の部屋をアレンジするのを趣味にしていました。そんな私の様子を見て、トライデント外国語・ホテル専門学校の職員だった姉が、「トライデントにデザイン専門学校が新設されるから、入学したらどうか」と勧めてくれ、スペースデザイン科に1期生として入学しました。

・・入学しての印象はいかがでしたか。

新設されたばかりで、先生方も学生も、「自分たちで、この学校の伝統を一から創り上げていこう」という情熱にあふれていました。

入学してしばらくたった6月に、愛知県南知多の海岸で行われた「感性教育 サンドアート」もよく覚えています。学生でグループを編成して、大量の砂を使った作品づくりに挑戦しました。それまで、もの作りは大好きだったのですが、一人でコツコツ作業していただけでしたから、クリエイティブな作品を仲間と協力して完成させる経験はとても新鮮で、コラボレーションの楽しさに目覚めました。

・・印象に残っている授業はありますか。

もう個々の科目名までは覚えていませんが、全体を通して、感性を育てる教育を大切にしていた印象があります。どの授業でも、もちろん先生からアサインメント(課題)は提示されるのですが、既成概念を押しつけられることは一切なく、私たち学生の自由な発想を大切にしてくださいました。「このアサインメントなら、こんな形に作るのが当然。それから外れた作り方ではダメだ」といった感じで注意されることはなく、どんなに変な作品であっても「それも面白いじゃないか」と評価してくださったのです。そうした環境が私にはとても心地よかったですね。

トライデントで行われていた教育法は、アメリカのメンターシップという教育法に近い気がします。これは、学生に指示し続けるのではなく、ちょっと離れたところから見守り、必要に応じて的確なアドバイスを行う教育法です。学生に教える立場になった今、私の授業でもメンターシップのプログラムを導入しており、トライデントの授業スタイルを体験したことが役立っています。

企業の現場見学や、アーティストの講演会など、刺激的な学びを体験

・・卒業制作ではどんな作品に取り組まれたのですか。

実家の農地を活用して、郊外型の大型商業施設を作るというアイデアが浮かび、設計図を引き、模型を作りました。今でこそ、たくさんのショッピングモールが誕生していますが、当時はまだほとんど見られませんでした。私は高校2・3年生の夏休みにアメリカでホームステイを経験しており、ショッピングモールの集客力の高さを目の当たりにしていましたから、同じような施設を日本でも展開したら面白いのではないかと考えたのです。誰もが驚くような斬新な作品にしようと、夜遅くまで作業し、卒業制作展に出品したときは、自分なりに達成感が得られました。このときの作品は現在でも大切に保存してあります。

・・そのほか、トライデント時代の思い出をお聞かせください。

先生方は、アーティストの講演会や美術展、ギャラリーなどに学生を積極的に連れて行ってくださり、刺激を受けることができました。また、先生と交流のある企業の現場を見学する機会も豊富でした。建設会社で壁紙、カーペットなどの最新素材のサンプルを見せてもらったり、ときにはそのサンプルをいただけることもありました。本物の素材を使うと、リアルな作品に仕上げることができ、うれしかったですね。こうした学びが可能なのも、名古屋にある学校だったからです。学ぶ上では、ロケーション、環境も重要になると思います。

それから、仲間にも恵まれました。現在でも、私が帰国するたびに皆で集まっています。建築デザイン関連を中心に、さまざまな業種で仕事をしていますが、それぞれ年齢的にも責任ある立場になり、仕事の楽しさ、充実感を語ってくれます。そんな仲間たちの活躍が頼もしく、刺激になっています。

写真家をめざしてアメリカのアート系大学・大学院に進学

・・トライデント卒業後のご経歴を紹介してください。

卒業後、1年間、商業施設・設計施工会社でインテリアデザインのアシスタントを務めました。仕事内容はそれなりに充実していたのですが、まだ若かったので、もっと多様な経験がしたいと思うようになり、退職して渡米しました。大きな転機になったのが、ニューヨークのギャラリーで現代写真に出会ったことです。アイデアを自由に表現する、新しい写真のあり方に魅力を感じ、本格的に勉強してみたいと思いました。そこで、デトロイトのカレッジ・フォー・クリエイティブ・スタディーズ(CCS)の写真科に入学しました。CCSは自動車のデザインで世界的に有名な4年制のアートスクールで、写真の基礎から学ぶことができました。



CCSの卒業が近づき、改めて将来像を考える時期になって、人と交流することが好きな自分は、教える職業に向いているのではないか、できれば表現者と教育者の両立をめざしたいと思うようになりました。アメリカでは、大学教員になるためには、大学院まで修了していることが条件になっています。そこで、ミシガンにあるアート系大学院・クランブルック(Cranbrook Academy of Art)に進学しました。ちなみに、大学・大学院時代の学費はすべてスカラシップ(奨学金)でまかないました。

・・大学院時代に経験されたことを教えてください。

クランブルックは、ユーロ・サーリネンという著名な建築家が設立したハイレベルな大学院で、高度な教育を受けることができました。世界中からアートを志す学生が集まっていますが、日本人は東京芸術大学出身者が数名いるだけで、専門学校出身者は私だけでした。

大学院時代から、写真のグループ展を開催するなど、作家活動を開始し、その実績も評価されて、大学院修了後は、母校のCCSで写真科のクラスを担当することになりました。現在は准教授を務めています。

・・今後の抱負をお聞かせください。

現在、CCSで教えるほかに、写真の個展も開いていますし、全米規模の写真コンテストの審査員も務めており、当初の目標通り、表現者と教育者を両立させています。今後は、若手写真家をサポートする役割も担っていきたいと考えており、4年前に自ら現代写真ギャラリー(Detroit Center for Contemporary Photography)を設立しました。「個展を開きたい」「ミュージアムに自分の作品を展示したい」など、意欲ある若手写真家たちの夢を実現させるためのコンサルティング活動に力を入れていきたいと考えています。

若い時期にさまざまな作品に触れて感性を磨いてほしい

・・トライデントで学んだことが、その後の活動に役立っていると感じていらっしゃることはありますか。

先ほども申し上げたように、私はトライデントで、伸び伸びと感性を育ててもらえましたし、仲間とコラボレーションしてクリエイティブな作業をする楽しさにも目覚めました。そして、当時学んだことは、卒業後20年たった今でも生かされています。たとえば、CCSでメンターシップのプログラムを取り入れ、学生の自由な感性を大切にした授業を展開していることや、若手写真家の育成とコラボレーションをめざして教育センターを設立したことなどは、トライデントで学んだからこそ、積極的に取り組むことができたことだと思います。これまでの私の活動の原点、ベースがトライデントの学びにあることは間違いありません。

・・最後に、トライデントで学ぶ後輩たちにメッセージをお願いします。

トライデントには、学生一人ひとりが自分のアイデアを追求できる環境が整えられています。デザインに興味を持っているのなら、ぜひ恐れずにチャレンジしてほしいですね。

また、優れた作品に触れる機会をできるだけ多くするように心がけることも大切です。それが感性を磨く上できわめて重要なことだからです。もしかすると「大して刺激にならなかった」と感じることもあるかもしれません。けれども、若い頃によく分からなくても、必ずいつか、ふっとその作品の素晴らしさが理解できるときがきます。優れた感性は、そうした積み重ねの上にできあがっていくものなのです。

Profile

阿部 恭平 (Kyohei Abe)

阿部 恭平(Kyohei Abe)

1971年生まれ。愛知県安城市農林高等学校卒業後、トライデント専門学校スペースデザイン学科に入学。同校卒業後株式会社スペースに入社。その後渡米し、 CCS入学、芸術写真を専攻。1999年B.F.A.を取得、その後 Cranbrook Academy Of Art 大学院にて現代芸術を学び2002年M.F.A.を取得。現在、卒業大学であるCollege For Creative Studies大学で講師を勤めるかたわら現代写真ギャラリー設立、運営している。

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