このページの本文へ移動 | メニューへ移動

「私と河合塾」-OB・OGが語る河合塾-: Vol.78 (2014年9月26日公開)

  • 医師・医療関連
  • K会
聖路加国際病院 アレルギー・膠原病科 医師 須田 万勢さん

深淵な学問の本質を教えたいという<br />情熱あふれる先生方のもとで<br />学問の世界に触れる楽しさに目覚めました

  • 聖路加国際病院
    アレルギー・膠原病科 医師

    須田 万勢さん

    出身コース
    K会

純粋で美しい数学の世界に感動

・・K会に通うようになったきっかけから教えてください。

中学3年生の頃、こんなに早くから大学受験を意識した勉強はしたくない、何か学問の面白さに触れられるような学びをしたいと思っていました。ちょうどそのとき、河合塾が、まさに私の希望にぴったりの学びを提供するK会を発足させることを知って、通うことにしました。

・・K会で印象に残っている授業はありますか。

一般的な塾は、入試で出題されるような問題を解く力を伸ばすことに主眼が置かれていると思います。けれども、K会はそうした指導スタイルとは一線を画しており、学問の面白さを伝えることをめざしていました。とくに数学の先生は、母校(筑波大学附属駒場中・高校)の先輩で、数学を究めることを生きがいにしている雰囲気が感じられました。授業を受けるときも、塾の教師と生徒の関係というよりも、同じ学問を追究する先輩と後輩のような関係だった気がします。中学生相手にも関わらず、深淵な数学の世界の本質を少しでも伝えたいという情熱が感じられ、数学という学問の面白さに目覚めることができました。

・・須田さんが感じた数学の面白さとは、どのようなものでしょうか。

数学はとても純粋な世界です。今、医療に携わっていると、医学的に正しいことが、現場では必ずしも正しいとは限りません。コストの問題、人間関係、あるいは薬の処方にしても、単純な効能だけでなく副作用にも配慮する必要があります。マルチファクターの中でバランスを図ることが要求されるわけです。それに対して、数学は純粋に原理・原則を追究することができます。しかも、その原理・原則はとても美しいものです。数学によって、こんなにも世界を美しく整理できることに、大きな感動を覚えたのです。

早めに学問の面白さを知れば、勉強を続けるエンジンになる

・・英語の授業はいかがでしたか。

K会の英語教育のコンセプトは、英語自体を学ぶのではなく、英語を道具として多様な世界を学ぶというものでした。それがとてもよかったと思います。

・・英語を道具として学ぶというのは、具体的にはどのような授業だったのですか。

各先生が、ご自分の専門分野の英語論文を紹介され、それを読み進めていく授業スタイルでした。その中で、文法の構造も解説されます。研究者が読むような論文ですから、とくに人文科学系の論文の場合は、難解な表現も多く、高度な読解力を養うことができました。けれども、そうした読解力の養成以上に、K会の英語授業の醍醐味だと感じていたのが、多様な学問の世界に触れることができたことです。先生方自身の専門分野の論文ですから、単に訳読して終わりではなく、その論文のバックボーンになっている学問の世界観まで語られます。とても刺激的な授業でした。

・・どのようなジャンルの論文が多かったのですか。

文化人類学や言語学を専門とする先生が多かったので、そのジャンルの論文が中心でした。今でもよく覚えているのが「言語は世界の根本なのだ」という先生の言葉です。先生はその理由を「言語とは世界を切り取ることだから」と解説されました。たとえば、私たちは「時計」という言葉を聞いたときに、すぐに「時計」の形を思い浮かべることができます。逆にいえば、言語がなければ、モノも事象も何らイメージすることはできないのです。また、同じ「時計」を意味する言語でも、他国の言語を聞いたときに、まったく異なるイメージになってしまうかもしれません。つまり、地球上にはさまざまな言語があり、それぞれの言語で異なる文化が発達したのは、言語による世界の切り取り方が違うからなのです。その解説を聞いたとき、言語を学ぶということは、世界の切り取り方を学ぶことであり、そこに外国語である英語を学ぶ意味があると、腑に落ちた思いがしました。文法を学ぶだけの授業だったら、なぜこんな勉強をしなければいけないのか、分からないまま仕方なく勉強していたと思います。言語を学ぶ意義を納得し、それを面白いと感じることができたことは、私にとって大きな収穫でした。

・・数学、英語ともに、学問の世界にアプローチする、かなり高度な内容だったのですね。

須田 万勢さん

ええ。そのため、おそらく現在のK会は、学校の通常の学習では飽き足りない中高生が通う場という位置づけになっているかもしれません。けれども私は、もともと学問に興味がある人だけが通う場ではなく、学問の楽しさに出会える場だと考えています。そして、できるだけ早い段階で学問の面白さに目覚めることが大切なのです。面白いと思えれば、それほど才能はなくても、「好きこそものの上手なれ」で、頑張り続けることができます。そのことは今、医療現場でも痛感しています。医療現場では、偏差値や出身大学はまったく関係なく、興味を持った分野を勉強し続け、その成果をどれだけ患者に提供できたかで、医師の価値は決まります。受験勉強も同じで、大学に入ることがゴールではなく、学びを持続させることが重要です。K会で、そのエンジンとなる学問の面白さに、早めに出会えたことに感謝しています。

生物学の研究と臨床の両方が追究できることに魅力を感じて東京大学理科三類に入学

・・医学部をめざそうと考えたきっかけは何ですか。

高校時代、最も好きな科目は生物でした。筑波大学附属駒場高校はユニークな授業が多く、生物では、研究者向けの論文を読んで、発表する授業がありました。その際に触れたのが発生学をテーマとした論文でした。受精卵という一つの細胞がどのように生物の形になっていくのか、生命の神秘に迫っていくスリルが学びの原動力になりました。こんな発見ができる研究者をめざしたいという気持ちが生まれたのです。その一方で、小学生の頃から、漫画「ブラックジャック」などの影響もあって、医師の仕事にも魅力を感じていました。そこで、生物学の研究と臨床の両面が追究できる東京大学理科三類を受験することにしました。

・・大学時代に力を入れたことは何ですか。

入学して2年間ほどは、生物学者をめざして、さまざまな研究室に出入りしていました。ところが、現代の生物学は、すでにゲノムの成り立ちは解明され、応用領域のステージに入っていました。私があこがれていた生命の神秘の根本を解明する研究とは少し違う気がして、急速に興味を失ってしまったのです。とはいえ、臨床にすぐにシフトする気にもなれません。悶々とした日々を過ごすうちに、4年次から臨床教育がスタートすることになり、こんな中途半端な気持ちではいけないと、思い切って1年間休学することにしました。自分の方向性を見直そうと考えたのです。

・・1年間休学したことで、何らかの転換が図られた面はありますか。

大学では西洋医学を勉強していたわけですが、この1年間は自分なりに太極拳や漢方を勉強しました。それまでは脈を診る際に、整・不整にしか関心がありませんでしたが、漢方では「渋い脈」などということもあります。「脈にはその人の人生の年輪が刻まれているから、脈から人生に起きた出来事が分かる」と断言する漢方医にも出会い、半信半疑でしたが、かなり正確に言い当てている様子に驚きました。理論だけでなく、感覚も組み合わせた医療ができる医師になりたいという思いが芽生え、そのためにも西洋医学の臨床もしっかり勉強しようと、新たな学びのモチベーションを得て、復学を決めました。

・・大学在学中にK会で講師も務められたのですね。

大学2年から約3年間、当時、自分で生物科を立ち上げて、手作りのテキストで、高校時代に面白いと感じていた分野を中心とした授業を行いました。かなり難解なテーマに踏み込んだ講義だったのですが、生徒たちは皆、好奇心旺盛で、目を輝かせて聞いてくれました。

総合診療と、専門家としての高度な医療を両立させたい

・・大学卒業後の経歴を紹介してください。

卒業後、長野県の諏訪中央病院に勤務しました。この病院は、診療科の垣根を越えて、多角的に診療を行う「総合診療」をめざしており、そこに魅力を感じたのです。けれども、5年間勤務するうちに、1つの専門領域を究める方向性も必要なのではないかと感じるようになりました。そこで、聖路加国際病院に移り、現在は、アレルギー・膠原病の患者さんを専門に担当しています。

・・日々の診療において、心がけていらっしゃることはありますか。

科にとらわれずに患者さんの全体をみる総合診療と、アレルギー・膠原病の専門家としての医療、その2つを両立させることが大前提です。また、聖路加国際病院を訪れる患者さんは、他の総合病院から紹介を受けて来院するケースが少なくありません。つまり、患者さんにとって最後の砦なのです。それだけに、私の治療がその後の病状、ひいては人生を左右することになります。それだけの責任感、使命感を持って診療に臨み、少しでも患者さんの不安を和らげることができる医師でありたいと考えています。

K会に通おうと考えたときの純粋な気持ちを大切にし続けてほしい

・・現在の仕事に、K会で学んだことが生きていると感じていらっしゃることはありますか。

総合診療の病院を選んだときも、現在の診療科に決めたときも、私が選択基準にしたのは、給与や勤務条件ではなく、自分が興味を持てる分野かどうか、その1点だけでした。人間は興味のあることなら、いくらでも頑張って勉強を続けられるし、潜在力も沸き上がってくると確信していたからです。私にとっては、先ほど申し上げたように、その意識を最初に体得した場がK会だったのです。

・・最後に、後輩へのアドバイスをお願いします。

須田 万勢さん

すべての科目について、オールマイティーな学力をめざす必要はないと思います。もちろん、センター試験レベルの多くの人が高得点をあげるような部分はおろそかにしてはいけませんが、全科目を得意にしようとすると過度の重圧がかかってしまいますから、好きな科目を伸ばすことにエネルギーを注いだ方が有効です。私自身、センター試験はそれなりの高得点をあげましたが、東京大学の2次試験の問題にはなかなか対応できませんでした。そのため、前期日程では不合格でした。けれども、英語、生物、化学の3科目に関してだけは楽しく勉強でき、自信がありました。当時、後期日程では、この3科目だけで受験可能だったため、合格することができたのです。後期日程の問題を見たときに、まさにこれは自分のための方式だと感じたほどです(笑)。そうした得意科目を生かして受験する方法もあるということを覚えておいてほしいと思います。

それから、何のために大学に行くのか、真剣に考えてほしいと思います。本来、大学とは学問の頂点の府であり、自分が興味のある分野をトコトン突き詰めることができる場です。そのことを十分に意識して、自分はどの分野に興味があるのか、じっくり考えてみることが大切です。

また、K会に通っていると、同級生が他の塾で入試に合格するためのテクニックを学んでいる様子を見て、遅れをとってしまうのではないかと、不安に感じることもあるかもしれません。けれども、そんなことを気にする必要はまったくありません。何よりも大切なのは、学問の面白さに目覚め、自分が一生追求し続けられる学問に出会うことです。それが見つかれば、その分野の高度な学びを実現するために大学に行くという明確な目的意識が生まれ、受験勉強のモチベーションも高まります。そうした学問との出会いを求めて、K会に通おうと考えたときの純粋な気持ちを大切にし続けてほしいと願っています。

Profile

須田 擁平さん

須田 万勢(Masei Suda)

1983年生。筑波大学附属駒場中・高等学校在学中の、中3からK会に通塾。高校卒業時まで在籍し、現役で東京大学理科三類に合格。東京大学医学部医学科卒業。在学中はK会の講師も務める。長野県・諏訪中央病院を経て、現在は聖路加国際病院アレルギー・膠原病科の医師として勤務中。

同じコースのOB・OG

同じ業界のOB・OG