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「私と河合塾」-OB・OGが語る河合塾-: Vol.80 (2014年11月28日公開)

  • デザイン・アート関連
  • 会社員(メーカー)
  • 専門学校トライデント
株式会社アルペン ミフト事業部 シューズグループ チーフ 上野 勇樹さん

豊富なグループワークを通して<br />コミュニケーション力が高まり<br />協力して作品を仕上げる喜びにも目覚めました。

  • 株式会社アルペン
    ミフト事業部 シューズグループ チーフ

    上野 勇樹さん

    出身コース
    トライデント デザイン専門学校

「感性教育」で自分とは異なる考えに刺激を受ける

・・トライデント デザイン専門学校を志望された理由からお聞かせください。

幼い頃から絵を描くのが好きで、デザインに興味を持っていたのですが、芸術系、美術系の大学に進むだけの自信はありませんでした。そこで、高校時代は国公立大学理系クラスに所属し、最もデザインに近い分野ということで、建築学科を志望していました。けれども、高校3年生になって、具体的に進路を決定しなければいけない段階になり、本当に建築学科に進んで満足できるのか、迷いが生まれたのです。ちょうどその頃、トライデント デザイン専門学校が開校されることを知りました。他の多くのデザイン系専門学校は2年制ですが、トライデントは3年制で、充実した学びが期待できそうだと思いました。自分にデザインのどんな分野が適しているのか、まだ暗中模索の状態でしたが、3年間あれば、時間をかけて自分の方向性を探すこともできると思い、グラフィックデザイン学科への入学を決意しました。高校3年生の途中までの成績は、ずっと学年トップだったため、高校から何度も自宅に大学受験を進める旨の電話があり、悩んだ時期もありましたが、結果的にトライデントに進学してよかったと心から思っています。

・・新設の専門学校ということで不安はありませんでしたか。

1期生なら、自由にやりたいことができるのではないかという期待感の方が大きかったですね。高校時代、河合塾の夏期講習にも通っており、その河合塾が開設する専門学校なら充実した教育が行われるに違いないという信頼感もありました。

・・トライデントの授業で印象に残っているものはありますか。

感性を研ぎ澄まし、表現力を高める「感性教育」のプログラムが豊富なことがトライデントの魅力です。しかも、そのほとんどがグループワークになっているところに大きな特色があります。私は入学前まで、デザインとは自分一人の力で考えるものと思っていたのですが、グループワークを通して、自分の考えを相手に伝えるコミュニケーション力が養われたほか、協力して作品を作り上げる喜びにも目覚めました。実際のデザインの現場は、様々な人々の協力で成り立っているわけで、学生時代から共同作業で1つの作品を仕上げる経験を積めたことは、とても有意義だったと感じています。

・・「感性教育」ではどのようなプログラムがあったのですか。

上野 勇樹さん

最も印象に残っているのは、岐阜で行われた1泊2日の合宿です。5~6名の学生でグループを編成し、与えられたテーマに沿って約15分の寸劇を作り、最後にホールで発表するというプログラムでした。そのときに与えられたテーマが「巨大なボールを使って寸劇を作る」。私たちのグループが演じたのは、未開の地にボールが落ちてきたという設定で、原住民が様々なアクションを起こすという内容です。奇声以外はまったく言語を使わず、身振り手振りだけで表現しました。その狙いはよかったと思うのですが、意図がまったく伝わらず、完全にすべってしまいました(笑)。

また、南知多の海岸では「サンドアート」として砂の造形を、野外民俗博物館リトルワールドでは、麻などの天然素材を使って展示物のレプリカを作るといったグループワークにも取り組みました。

こうしたグループワークの魅力は、自分とは異なる感性に触れられるということです。しかも、作品に仕上げるためには、意見交換を重ねて、共通認識を図る必要があります。どうすれば自分の考えを相手に納得してもらえるか、逆に相手の意見をどう受け止めるのか、その機会が豊富に設けられていることが、トライデントの強みだと思います。

グループワークで培った人間関係を駆使した「卒業制作」

・・印象に残っている先生はいますか。

個性的な先生が多かったですね。どの先生も、単にデザインの知識・技術を教えるだけでなく、デザイナーとしての心構えも伝えようという熱意が感じられました。よく覚えているのは「デザイナーと芸術家は違う。芸術家は自分の感性のおもむくままに表現すればいいが、それが相手に受け入れられるとは限らない。デザイナーをめざすのなら、対象者に受け入れられるものを作ることが大切になる。」という言葉です。社会人になった今、改めて貴重な教えだったと感じています。

・・卒業制作ではどんな作品を作ったのですか。

最初は、旅行会社のポスターを制作しました。1月上旬に、A全5枚の作品を仕上げて、先生の前でプレゼンテーションしたのですが、「上野はこんなものではないだろう」と突き返されてしまいました。提出締め切りは1月末ですから、やり直すのは大変ですが、それよりも、「もっといい作品が作れる技量があるはずだ」と、先生に認められているという感激の方が大きかったですね。張り切って、アンティークショップのポスターというまったく新しいテーマに取り組みました。もっとも、締め切りに間に合わせることはできず、2月に入ってからも学校に通って制作を続けました。

・・どのようなところを改善されたのですか。

最初のプレゼンテーションのときは、芸能人の顔をデフォルメした作品でしたが、それは単に自分の得意な画風を生かそうとしただけであり、旅行会社のポスターということをあまり意識していませんでした。その点を反省し、2回目は、アンティークショップの商品にふさわしいデザインにしようと心がけました。

・・約1カ月間で制作し直したわけですから、大変だったのではないですか。

グループワークで培った人間関係を駆使して、すでに卒業制作を終えた同級生や後輩たちに手伝ってもらいました(笑)。これは別に“反則技”ではなく、先生方からも「いずれはチームのリーダーとして活躍することになるだろう。その将来のためにも、これまでの人間関係を活用するのも1つの方法だ」と容認していただいていました。

「産学協同授業」「インターンシップ」を企画・提供

・・卒業後の経歴を紹介してください。

上野 勇樹さん

バスケットボール、スキー、スノーボードなど、スポーツが好きだったので、スポーツ用品を扱うアルペンに入社しました。アルペンは、スポーツ用品のプライベートブランドの先駆者であり、自分がデザインした商品が全国各地の店頭に並ぶことも魅力的に感じたのです。

1992年に入社して、2010年7月までは、スキー・スノーボードを主力に扱う商品部に所属し、デザイナーとして活動しました。その間、部署の再編に伴って、トレッキング、キャンプ、フィットネス、カジュアルシューズなどの分野のデザインにも携わりました。また、アルペンと契約しているオリンピック選手の用具デザインも手がけました。一般の商品は、できるだけ多くの人に受け入れられるデザインが目標ですが、オリンピック選手の場合は、たとえば、モーグルでは、ジャンプして回転する際のソールの見映えが得点に影響します。その選手の得点を伸ばすには、どのようなデザインにするのがベストなのか、オーダーメイドの仕様が要求されるのです。その分、とてもやりがいが感じられる仕事でもありました。当然、選手はデザインに精通しているわけではありませんから、感覚的な言葉で要求を伝えられることが多く、何が求められているのか、くみ取るのに苦労しましたね。

2010年8月からは、アルペンで、新しい業態としてシューズの専門店を立ち上げることが決定し、そのプロジェクトチームに入りました。2011年12月にミフト事業部として具体化し、現在はそのチーフを務めています。プライベートブランドの企画のほか、買い付け、物流管理など、商品に関わるすべてのマネジメントを担当しています。

・・会社での業務の傍ら、トライデントで講師も務められたのですね。

後輩たちに現場のニーズを直に感じる体験をしてもらいたいと考えて、アルペンとトライデントが連携して行う「産学協同授業」と「インターンシップ」を企画・提供しています。私が発案したプログラムなので、2000年から10年間程、外部講師も務めました。「産学協同授業」では、アルペンのスノーボードやスケートボードのデザインを学生に提案してもらっています。

・・学生を指導される際に心がけられたことはありますか。

上野 勇樹さん

印刷技術は日々進化していますし、新しい材料も次々に登場していますから、まずは私自身がそうした最新の知識を再認識した上で授業に臨むようにしていました。

また、先ほど申し上げた「デザイナーと芸術家の違い」、すなわち独りよがりに陥らず、対象者に受け入れられるデザインにする重要性は伝えるようにしました。ただし、外部講師としての立場上、極端な制限は加えないように配慮したつもりです。学生の自由な発想を阻害してはいけないからです。独自の道を突き進んで作品を仕上げてくる学生もいて、その方が面白い場合も少なくありません。

・・「インターンシップ」はどのような仕組みになっているのですか。

年2回、夏と冬に各2週間、1名ずつの学生をアルペンで受け入れ、デザインの現場を体感してもらっています。「インターンシップ」に参加した学生は、「産学協同授業」でリーダー的な役割を果たしてもらうことを期待しています。中には相性の良さを感じて、入社を希望してくれる後輩もいて、現在、10名近くのトライデント卒業生がアルペンでデザイナーとして活躍しています。

他学科・専攻の友人とも交流が続いていることが、視野を広げる上での大きな財産に

・・今後の目標をお聞かせください。

上野 勇樹さん

当面の目標は、ミフト事業を順調に成長させることです。そのために、日本のシューズ文化を変えるぐらいの意気込みで頑張っていきたいと思っています。多くの方々がシャツや靴下などは毎日替えるのに、靴だけは同じものを履き続ける人が少なくありません。TPOに応じて、靴も履き替えるようにすれば、もっと人生は楽しくなります。そんな生活スタイルを提案していきたいですね。

また、現在、デザインの第一線からは離れているわけですが、アルペンの経営理念である「For the Customer」、つまりお客様を第一に考える精神は、どの立場であっても重要であることに変わりはありません。今後も、その思いを大切にしていきたいと思っています。それに、たとえば仕入れなどの際に、デザイナーとして消費者目線からも商品を見ることができる点が私の強みであり、それを最大限発揮していきたいと考えています。

さらに、アルペンは人材育成に力を入れており、そのバックアップを得て、現在、グロービス経営大学院の単科生制度で、MBAを学び、経営戦略やマーケティングスキルを高める努力も続けています。

・・現在の仕事にトライデントで学んだことが役立っていると感じられることはありますか。

やはりグループワークで協調性やコミュニケーション力が養われたことが大きかったと思います。感受性の豊かな時期に出会った仲間や先生方との人間関係はかけがえのないものです。今でも、当時の仲間とは毎月のように交流の場を設けています。その際に、改めてトライデントの教育システムの魅力を感じることもあります。それは、グループワークをはじめとして、「デッサン」「コンポジション」など学科、専攻の枠を越えた授業が豊富だったことです。そのため、私は他の学科・専攻にもたくさんの友人ができました。社会人になって、最もこわいのは、同じ業界の人とだけ交流していたのでは、視野が狭まってしまうということです。とくに柔軟な感性が求められるデザインの世界では視野狭窄は最も避けなければならないことなのです。他の業界に進んだ他学科・専攻の仲間と交流が続き、刺激を受けられることが、私にとっての大きな財産になっています。

実は、恥ずかしながら、トライデントの卒業式では号泣してしまいました。まさか泣くとは思っていなかったのですが、充実した学校生活を送ることができた証ですね。それだけの価値がトライデントにはあったと思っています。

・・最後に、後輩へのメッセージをお願いします。

高校時代は、自分の将来の方向性が漠然としている人も少なくないでしょう。私もそうでした。けれども、トライデントで多様な個性に出会い、ぶつかり合う中で、自分なりの個性に気づき、めざす道が見えていった気がします。トライデントは、そんな新たな自分を発見できる場でもあると、私は考えています。

Profile

上野 勇樹さん

上野 勇樹(Yuki Ueno)

1970年愛知県生まれ。愛知県立蟹江高等学校(現在の海翔高等学校)3年生の時、河合塾名駅キャンパスの夏期講習を受講。高校卒業後、デザインの道を志し1989年4月よりトライデントスクールオブデザイン(現トライデント デザイン専門学校)に入学。グラフィックデザイン学科専攻。1992年3月同校卒業後、4月よりグラフィックデザイナーとして株式会社アルペンに入社。スキー・スノーボードなどのデザイナーとして活躍。2006年10月に商品部商品企画グループのチーフに就任。2010年8月より新事業立ち上げのプロジェクトチームに選出され、靴専門店Mift.(ミフト)の事業戦略策定。2011年12月ミフト事業部設立、商品関連のチーフに就任。2012年3月に一号店オープン以来、2014年10月までに8店舗の運営に至る。

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