このページの本文へ移動 | メニューへ移動

「私と河合塾」-OB・OGが語る河合塾-: Vol.126 (2022年5月2日公開)

  • その他
  • 高校グリーンコース
音楽評論 鉢村 優さん

河合塾が育ててくれた<br />論理的な思考力が<br />今の自分を支えています<br />

  • 音楽評論

    鉢村 優さん

    出身コース
    高校グリーンコース

高2から高校グリーンコースで学んだ

・・・河合塾を選ばれたのはどんな理由からですか。

鉢村 優さん

 ほとんどの同級生がそのまま系列大学に進学する高校に通っていたため、外部の大学を受験するなら学習塾に通った方がいいと思っていました。姉が河合塾に通っていたため、同じ池袋校に通うことにしました。
 元々はフルートで音大に進みたいと思っていたのですが、家族の理解を得られず普通科の大学をめざすことになりました。それでも音楽を諦められなかったわたしは、有名な大学オーケストラがある東大、京大、早稲田大、慶應大のいずれかに進学しようと考えました。

東京大学教養学部文科三類から経済学部に進学

・・・東京大学に入学した後はどんな生活を送りましたか。

 前期日程で受験した文科一類は不合格でしたが、後期日程で文科三類に合格し念願の東京大学音楽部管弦楽団にも入部して、教養学部では本当に楽しく勉強できました。
東京大学には3年次以降の専攻を2年次で決め直す制度(いわゆる「進学振り分け」)があるのですが、その際に父の強い勧めで専攻を変え、経済学部に進学することになりました。
 当時わたし自身は教育学や哲学に興味があったため経済学の基礎科目をまったく履修しておらず、進学後はとても苦労しました。周りにキャッチアップするために心を病みながら猛勉強を続けました。

凸版印刷株式会社で文化の仕事に取り組む

・・・将来ビジョンをどう思い描いていたのですか。

鉢村 優さん

 卒業後は国家公務員として教育や文化行政に携わりたいと思っていたのですが、試験で不合格になってしまいました。その頃にはすでにほとんどの企業が採用活動を終えています。必死に就職活動を行う中で、運良く欠員募集が出ていた凸版印刷株式会社にご縁をいただくことができました。人々の知を支える印刷という仕事に魅力を感じただけでなく、凸版印刷は美術品や文化財をテーマとした新規事業にも取り組んでいたのです。
 そうした文化事業部門を志望して入社しましたが、実際に配属されたのは経理部でした。上司や先輩方には大変良くしていただいたのですが、やはり数字を扱う仕事は向いていなかったようで・・・3年目で念願の部署に異動できました。東大寺大仏の3次元CGモデルを使った旅行商材を企画するなど大変充実した日々を送っていたのですが、しだいに「このままでいいのか」という疑問が生じてしまいました。文化は、美術は、叶えられなかった音楽の身代わりなのではないかと思ったのです。
と言っても自分に演奏家としての資質がないことはその頃には理解していましたし、オーケストラの事務局や音楽出版社で働くことも考えたのですが、家庭の事情で転勤が避けられないため、持続的なキャリアを築くことは困難だと思いました。
 そんなときに出会ったのが音楽評論家・吉田秀和の文章でした。わたしは「自分のやりたいこと、できること、他者の望むこと」という3つの要件を満たす道を探していましたが、その小さなど真ん中に「音楽について書く仕事」があることに気づいたのです。この道があった、やっと見つけた、と思いました。

音楽について書く仕事を始め、東京芸術大学 大学院へ進学

・・・ご自分の道を見つけてからの経緯を教えてください。

鉢村 優さん

音楽関連の校閲と一部執筆を担当した「大辞林」第四版

 まず友人が所属するアマチュアオーケストラのために文章を書くことから始めました。あるとき凸版印刷で東京フィルハーモニー交響楽団のお仕事を担当したことのある先輩に出会い、事情をお話しして事務局に紹介していただくことができました。それをきっかけに東京フィルで曲目解説を書かせていただき、その後いくつかのご縁も重なってプロの音楽団体のための仕事が増えていきました。「この道でやっていけるかもしれない」と手応えを感じ始めた反面、専門の音楽教育を受けていない難しさも日増しに感じるようになりました。そこで音楽系大学院で勉強し直すことを決意し、凸版印刷での仕事は大好きだったのですがやむなく退職して東京芸術大学大学院に進学しました。
 現在では、演奏会の曲目解説を書いたり、オペラのドイツ語字幕を英訳したり、「大辞林」第四版で音楽関連の校閲と一部執筆を担当するなど幅広く活動しています。

  • 鉢村 優さん

    曲目解説を担当したコンサート(新日本フィルハーモニー交響楽団)

  • 鉢村 優さん

    ドイツ語の歌詞を動画字幕用に英訳したオペラ「フィデリオ 」(東京二期会)

河合塾の2年間が現在のわたしを支えてくれている

・・・河合塾で学んだことで、現在役立っていることはありますか。

鉢村 優さんと弘實郁江さん

(左)鉢村 優さん      (右)元チューター 弘實郁江さん

 現在の仕事はコンサートで演奏される作品の解説を書くのが8割で、他には音楽関連の校正や翻訳・通訳をしたり、CDのレビュー(*)を書いたり、ナレーション台本を創作したりとさまざまな仕事をしています。
 わたしは文章を書くときは①確かな情報をつかみ、②誰もが納得できる筋道に整え、③楽しさやワクワク感を添える、という3つのステップを踏むようにしています。その最初の2ステップは河合塾で学んだことが基礎になっています。
 わたしが2年間受講したのはいずれも記述・添削式の授業だったため、対象を正しく理解し、それを的確に伝える術を徹底的にたたき込まれました。それは現代文に限らずすべての科目にいえることで、切り口は違ってもみな論理的な考え方を訓練していたのだと思います。小手先の受験勉強ではなく、一生の基礎となる思考力を育てていただきました。
 大学受験は精神的に大きな負荷がかかる一大事ですが、その道のりを真心で伴走してくださったチューターさんはかけがえのない存在で、15年以上経った現在でも交流が続いています。河合塾での学びと出会いは今もわたしを支えてくれているのです。

執筆したヴィキングル・オラフソン「モーツァルト&コンテンポラリーズ」のCDレビューは、以下のURLをブラウザーに貼り付けご覧ください。
https://freudemedia.com/review/olafssonmozartandcontemporaries

Profile

鉢村 優さん

鉢村 優(Sophie  = Yuu Hachimura)

1988年東京都生まれ。聖心女子学院高等科の2年次から河合塾池袋校の高校グリーンコースに通い、東京大学教養学部文科三類に現役合格。2011年東京大学経済学部を卒業し、凸版印刷株式会社勤務を経て、東京芸術大学大学院 音楽研究科(音楽文芸)修士課程修了。テンプスタッフ株式会社より奨学金を得て米国シアトルに短期留学し、クラシック音楽をめぐる言論状況を学ぶ。現在、オーケストラの演奏会のパンフレットへの寄稿を中心に音楽評論として活躍中。<br /><br />webサイトは、以下のURLをブラウザーに貼りご覧ください。<br /> https://yuuhachimura.wixsite.com/yuuhachimura<br />

同じコースのOB・OG

同じ業界のOB・OG