「私と河合塾」-OB・OGが語る河合塾-: Vol.140 (2025年7月公開)
- その他
- 河合塾KALS
証券会社営業から<br />心理臨床家へ<br />回り道してもいい<br />自分のこころに従って
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プロフェッショナル・サイコセラピー研究所
臨床心理士・公認心理師・AFP〈日本FP協会認定〉岸原 麻衣さん
- 出身コース
- 河合塾KALS
営業職は自分に合っていたが、こころには「葛藤」 が
・・・単線的なキャリアを歩まなかった理由をお聞かせください。
大学卒業後は証券会社に勤務しました。経済の活性化のために、眠っているリソースを動かし「貯蓄から投資へ」の流れを加速させる仕事に興味を惹かれたからです。企業や富裕層の方向けに資産運用を促す新規開拓営業の仕事は自分に合っていたようで、全国300人の同期の中でトップ3に入る成績を残しましたし、主任にもすぐに昇進しました。
ただ、職場には心身の不調を訴えて休職・転職する人も少なくなく、「次は私の番ではないか」と思うほどには疲弊していたのだと思います。私にとってやりがいのある仕事だとは認識しつつも、日々の目標に追われることが重荷になり、結局、2年半で退職しました。自分自身が生き生きと働けていない感覚があり、こころから楽しいと思えていないことに気づいてしまったからです。
臨床心理士との出会いから心理学への興味が再燃
・・・なぜ心理の専門職に興味が向いたのでしょうか。
働き方について悩んでいるときに知り合いの臨床心理士から食事に誘ってもらい、人は自分の心とどう向き合えるのか、などいろいろなことを教えてもらいました。そのとき、かつて自分の中に心理学への興味や憧れがあったことを思い出しました。
ロールモデルを見出せず、将来像も描くことができないまま仕事を続けるのは嫌。かといって、自分のこころと向き合う働き方なんて実現できるのか。他職種への転職も試みたのですが、気づいてしまった心理学への思いも捨てられません。まずは知人のところでアルバイトをしながら、通信制の聖徳大学心理・福祉学部で基礎の学びをスタートさせることにしました。
臨床心理士や公認心理師などの専門職をめざす人が集まる環境で学ぶうちに刺激を受け、4年次の途中からは、自分も本気でその道をめざそうと思うようになりました。そのためには大学院進学が不可欠です。ただ、ろくに勉強なんてしたこともない自分には、ハイレベルな大学院は無理だろうといったあきらめのようなものがありました。ところがある日偶然、お茶の水女子大学の前を通りかかった時に、尊敬する友人が、「あなたは自分の限界を自分で決めて、可能性に蓋をしがちだけれど、頑張って勉強してここに入ったら変わるかもね」と。この言葉がこころに刺さり、お茶の水女子大学大学院への挑戦を決めました。
河合塾KALSの実践的な指導と熱心な応援で見事合格へ
・・・大学院受験に挑戦する日々はいかがでしたか。
さっそく、大学時代の学友に紹介された河合塾KALSの「公認心理師・臨床心理士大学院入試対策講座」を受講することにしました。
9月受講開始であったため、受験までの半年間は、こんなに勉強したことはないと思えるほど勉強しました。なかでも河合塾KALSの研究計画書の指導は非常に手厚いものがありました。研究計画というものの土台がまったくなかった自分のレベルに合わせて、個別指導していただけたことには感謝しかありません。また、チューター相手に面接の練習を何度も繰り返せたこともありがたく思いました。思い切り失敗することができ、そこから学ぶことも多かったからです。
何より心強かったのは、本気で何かをめざしたときに、その思いを信じて応援してくれる人が河合塾KALSにいたということ。そういう人の存在がどれほど大切なのかが身に沁みてわかりました。対人支援の仕事をしていくうえで、自分自身も、人から応援してもらう時の感覚を忘れずにいたいと思っています。
働く女性の多様な悩みを共に考える
・・・現在のお仕事について教えてください。
お茶の水女子大学大学院を修了後、臨床心理士、公認心理師の資格を取得し、現在はプロフェッショナル・サイコセラピー研究所で心理臨床家として働いています。自分の経験を踏まえて、働く女性の「キャリア」「心身の健康」「お金」の3つの側面から心理療法を行っています。
相談に訪れるクライエント(※)の悩みに対して、セラピストが答えを持っているわけではありません。しかし、こころを使って一緒に考え、対話を続けていく中で、クライエントは自分の行動パターンや思い込み、無視してきた感情などに気づいていきます。そうした場面を共有できれば嬉しいですし、逆に答えや正しさのない状況を一緒に耐え忍ぶ能力も求められます。それが難しくもあり、醍醐味でもある仕事だと考えています。
※クライエント:心理学の領域における、カウンセリングや心理療法を受ける人の呼称。
回り道を恐れず自分のこころに従えばいい
・・・今後の抱負と学生や進路に悩む人へのメッセージをお願いします。
特にファイナンシャル・セラピーに力を入れていきたいと思っています。ファイナンシャル・セラピーは、日本ではまだあまり知られていませんが、リーマンショック後のアメリカで生まれた分野です。これまでは、お金のことはFP(ファイナンシャル・プランナー)が、こころのことは心理臨床家に、とそれぞれ別の問題として扱われることがほとんどでした。しかし実際には、お金の悩みには心理的な要因が深く関わっていますし、心理状態がお金の使い方に影響を与えることも少なくありません。臨床心理士、公認心理師、そしてAFP(※)として、自分自身が知識とスキルを融合させ、この画期的な分野をぜひ日本に根付かせたいと強く思っています。
学生やこの先進むべき道を迷っている皆さんには、回り道はけっして悪いことではないと伝えたいです。そのときどきに自分がベストだと思う道に進むこと。先のことは、未来の自分が引き受けてくれます。あなたのこころの声を聴くために、私のような心理臨床家がお手伝いできることもあるかもしれません。そして、別の道に進むときにはきっと、河合塾KALSのような存在が助けてくれるはずです。
※AFP:アフィリエイテッド・ファイナンシャル・プランナー
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岸原 麻衣(Mai Kishihara)
東京都出身。4年制大学卒業後、証券会社に入社。資産運用の営業職として勤務するも、心理学への興味から退職し、聖徳大学心理・福祉学部に編入。在学中に、専門性を高め本格的に心理職をめざすべく、河合塾KALSに入塾し「公認心理師・臨床心理士大学院入試対策講座」を受講。お茶の水女子大学大学院に進学後、臨床心理士、公認心理師の資格を取得し、現在はプロフェッショナル・サイコセラピー研究所に所属。AFPの知見を生かしたファイナンシャル・セラピー、女性のウェルビーイングの支援に注力している。
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