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河合塾フォーカス

河合塾グループの取り組みに焦点をあててご紹介するページです。

|08|―ミライ研(未来研究プログラム)―河合塾だからこその葛藤とは?

河合塾では、「教育を通じて社会に貢献する」という理念のもと、大学受験領域のサービスや商品に限らず、広く教育に資するサービス開発や商品提供を行っています。
今回ご紹介する、「河合塾未来研究プログラム(ミライ研)」もその一つです。中高生を対象に、未来に起こりうる社会課題や、自分の将来についてじっくりと研究することで、主体的な学びを後押しする「探究型学習プログラム」です。このプログラムは、未来と自分の関係を「選択」「洞察」「科学」という3つの切り口で深める内容で、河合塾の塾生指導にも取り入れているほか、高等学校でも導入いただき、勉強合宿や総合的な探究の時間・進路面談などで幅広く活用いただいています。
今回は、この「ミライ研」の3つのプログラムのうち「ミライの選択(生徒たちが選択肢を増やし、自分の価値観や判断基準を深め、意思決定するプログラム)」にフォーカスし、プログラム開発の裏側や今後の展望を2回にわたってお伝えします。2021年11月30日公開

第1回目は、プログラムの開発の背景から、河合塾ならではの葛藤について、河合塾アセスメント事業推進部の山口さんと山本さんに語っていただきました。

「情報に流されない、自分の頭で考え、判断できる人材育成を!」

  山口大輔さん

Q:ミライ研ができた背景・経緯を教えてください。
山口さん:きっかけは、2011年の東日本大震災までさかのぼります。震災に関わる情報の中には、真偽が不確かな情報が多く飛び交い、ニュースでは答えのない問題に対し、有識者に「正解」を求めるような場面も多く目にしました。これらの様子から、部内で「人はなぜ情報に流されてしまうのだろう」という問題提起があり、「自分の頭で考え、判断できる人材育成をどう行っていくか」という課題が生まれました。
調査をしていく中で行きついたのは「批判的思考力」を身につけるプログラムの必要性です。当時、これからの社会で求められる「新しい学力」のための教育手法として、アダブティブラーニング型授業が導入され、教員が「教える(Teaching)」から生徒自身が「学ぶ(Leaning)」という能動的学びを展開し始めた時期でした。しかし現在ほど「批判的思考力」に対する理解がなく、 “批判的”というワードだけでネガティブに捉えられることもありました。生徒にしても「批判的に考えよう!」と言われたって難しいし、何よりもおもしろくないだろう、と。
そこで、社会の変化や技術の革新に伴う問題や課題をテーマとして、これらの力を伸ばすプログラムをスタートさせました。それが現プログラムの「ミライの洞察」「ミライの科学」(※)につながっています。
「ミライの選択」に本格的に着手したのは2019年です。2016年に、これからの社会で求められる資質・能力を多面的に測定するテスト「学びみらいPASS」(※)を開発・販売し始め、「リテラシー」「コンピテンシー」(※)といった社会で求められるジェネリックスキルを、どう伸ばしていけばよいか分析していくと、最も影響していたのは「キャリア意識」でした。キャリアの見通しを持つことの重要性を改めて認識したことが大きかったですね。

山本さん:このテストでは生徒たちが、自身の適性や興味を知ることができます。「自分の将来を考える」きっかけを提供したことによって、ますます「意思決定」にアプローチする「ミライの選択」の意義が高まったと思います。
「世の中に興味・関心を持ち、その中に自分の人生へのつながりを見出す」ことはミライ研の3つのプログラムに共通しています。
現在は、「ミライの選択」をきっかけにして、より深い探究は「ミライの洞察」「ミライの科学」でという流れで、高等学校への導入をご案内しています。

進路選択などの際に「意思の決定方法」を学んだことがある学生は13%?!

  山本尚毅さん

Q:意思決定の方法を知っている人は13%というのはとてもインパクトのある数値ですよね。
山本さん:「ミライの選択」をどのようなプログラムにすべきか、当初はいろいろなアプローチの仕方を考えていたんです。たとえば、従来の進路選択は、法学部なら弁護士、心理学ならカウンセラーなど、学問から職業に結びつけてしまうアプローチ法が多く、本人の適性や可能性はたくさんあるのに、1つの職業に絞ってしまうのはもったいないという思いがありました。
そこで、生徒自身が主体的に意思決定をできるように「決め方・方法」に焦点をあてたんです。当時、新しい学力の3要素(思考力・表現力・判断力)のうち、「判断力」は、多くの教育教材や観点から抜け落ちていることに目をつけました。そこから「進路の決め方」に焦点をあてて、卒業生に調査してアンケートを取ったところ、「進路の決め方」を知っている生徒は、ごくわずか「13%」だったのです。

山口さん:今の生徒の周囲には、情報が溢れています。高校生になると、たいてい1年生のうちに文理選択があり、「なりたい職業・学問を考えよう」と言われますが、サポートできることは未だに情報提供に偏りがちです。たとえば、「オープンキャンパス」・「進路ガイダンス」・「進路講演会」・「進学情報誌」など…。結果として、我々大人たちは多くの情報だけをあげっぱなしになっていることが少なくありません。そして、いざ文理や志望校選択の時期になると、「1週間後の面談までによく考えて決めてください」としか言えない。そうすると高校生は、直近の感情の勢いでなんとなく決めてしまうことが多いのです。もちろんそうでない生徒もいますが。
だからこそ与えられた情報の中からどうやって進路を決めたら良いのか、その「決め方を学ぶプログラムをやろう」となった。それこそ、「学んだ内容ではなく、学ぶ方法こそが将来に残る」と考えたんですよね。それが、「ミライの選択」開発の裏側の話です。

葛藤「河合塾だからこそ実践からの高品質!⇔ 河合塾だから売れない?!」 

Q:開発するうえで、大変だったことをお聞かせください。
山口さん:高等学校の先生にご紹介すると「意思決定の必要性は分かるけど、大学入試にどう役立つの?」という声が挙がります。「意思決定」は直接的な入試対策ではないので、予備校である河合塾が、入試対策に直結しないプログラムを行う必要性を感じてもらえなかったことが1番の課題でした。大学受験のイメージが強すぎる河合塾ならではの悩みとも言えます。
このプログラムを受講した生徒の満足度は高く、実際に生徒が生き生きと対話している様子を見ていただくと、教育的な意義も含めて伝わるのですが、事前にその効果を伝えることが難しかったですね。偏差値のような客観的数値があると伝わりやすいのですが、このプログラムは数値評価しにくいものです。そのうえ最近では教員の働き方改革などもあり、時間とコストがかなり限られるため、高等学校の先生方に話を聞いてもらえても採用に結びつくまでが大変でした。これは今でも苦労している面です。


Q:辛かった時期をどうやって乗り越えたのでしょうか?
山本さん:このプログラムは、実際に生徒の皆さんに体験してもらってブラッシュアップしていったのですが、その過程で、河合塾にある「東大現役進学塾MEPLO※」や都立高進学生を対象にした「河合塾Wings」など、多くの成績・志望・学年も異なる生徒に対して、グループワークなどを実践するフィールドがあったことは、河合塾だからこそできたことです。これは、今でも我々の糧になっています。立ち上げ当初だけでも河合塾内外で100人以上の生徒に体験してもらい、その学力レベルに応じたチューニングを行うなど、プログラムのブラッシュアップを重ねました。「ミライの選択」は、文理選択や進路選択という大学受験と切っても切り離せないステップで活用できるようにしたことで、大学受験予備校である河合塾の強みを生かせるようになったと思います。チームのメンバーはもちろん、高等学校の先生方と日頃から接している営業部のメンバーからもフィードバックをもらい、つくりこんできました。
今考えると、河合塾だからこそ「受験」という枠組みからなかなか抜け出せなかったのも事実ですが、「河合塾」だからこそ実践の場が多くあり、そのフィールドを利用することでプログラムの内容をブラッシュアップができたと感じています。

身近な事例から段階的に興味をもってもらえるような仕掛けがたくさん!

Q:開発・推進するうえで、特にこだわった点を教えてください。
山本さん:こだわった点は3つあります。
1つ目は、段階的に「具体から抽象」の流れを意識してプログラムを構成しているということ。プログラムの導入部分では、部活など生徒たちの日常に起こる身近な例を題材にしています。「部活動を転部するかどうかを決める」というケーススタディでは、おもしろいことに、生徒の回答がきれいに分かれるんですよ。理由もさまざまで、生徒一人ひとりのこだわりが見えたり、想定していない選択肢が出てきたりするので、驚かされます。
山口さん:意見交換等のグループワークを実践する中で、選択肢も判断基準も増えていくので、より深みが増して、最後は本人の納得感が増すんですよね。納得度が高まると、その決めた方向に進んだ後に少々の困難があっても、くじけずに乗り越えようとします。逆に納得度が低いと、すぐ後悔したり、ちょっとした壁を乗り越えられないんです。これは進路選択や入試でも同じことが言えます。低学年のうちからじっくり考えて選択すると、最後の踏ん張りや粘りが違うんですよね。河合塾っぽく言うなら「タフな受験生」を育成する、といった感じでしょうか。
2つ目は、カードゲームで、自然と理解がすすみ、学びが発生するように工夫すること。進路を考えるうえで、自分の内面を知ることは重要ですが、非常にとっつきにくいことです。ですので、ハードルを下げて、生徒たちがおもしろがれることを大切にしています。

3つ目は、進路に関しては、生徒の言葉にすることが難しい感覚的な想いを大切にすることです。ミライの選択は、フレームワークが強固なので、論理によりすぎず、直観や感覚も取り入れるために、即興が起きやすい工夫もしています。
山口さん:未来のことなんて誰にもわからないですし、教えてもらえないですからね。

★★★

<プロフィール>
◆山口大輔◆
1996年入塾。営業として東京都内の高校を担当。2002年より名大との共同研究に参画しテスト理論を学び、新商品開発に携わる。その後、模試事業企画を経て2009年より新規事業企画に従事。学びみらいPASS及びミライ研の開発を担当。
◆山本尚毅◆
SIerでの営業、ソーシャルベンチャーの創業を経て、2015年⼊塾。未来研究プログラムの開発を担当。塾内外のネットワークも積極的に活かしプログラムの質を高めるとともに、2020年に『もし「未来」という教科があったなら』(学事出版)の刊行にも携わる。

<注釈>
※ミライ研とは?>
「未来」を学びの素材とした探究型学習プログラム
01.ミライの選択
具体的な進路をどう決めるのかを入り口に、自分の価値観や判断基準などを深ぼりしながら、進路の「決め方」を学ぶプログラム。

02.ミライの洞察
未来の兆しを感じさせる身近なニュースを素材に、自分の将来だけでなく、社会の未来像について広く、じっくり考えるプログラム。

03.ミライの科学
外せない時流である「AI・ロボットと働き方」と「ゲノムと生命倫理」など、科学技術がもたらす社会問題をディスカッションするとともに、社会にとって望ましい未来とは?を考えるプログラム。

※学びみらいPASSとは?>
生徒の進路に関わる興味関心を広げ、変化の時代に求められる力を客観的に測定するテスト

01.リテラシー
知識を活用して問題を解決する力。その要素は、情報収集力、それを分析する力、その要因を発見し、解決すべき課題を設定する力、さまざまな条件・制約を考慮して、解決策を具体化する力です。

02.コンピテンシー
経験を積むことで身につく実践的な行動特性。その要素は、人と向き合う力、自分をコントロールするチカラ、課題に向き合う力です。