京都新聞・神戸新聞・産経新聞に河合塾によるコラム連載(第3回)
2021年07月08日
京都新聞、神戸新聞と産経新聞に、京都大・大阪大・神戸大など関西の難関大受験をテーマとしたコラムの連載しています。本連載では、河合塾近畿地区の講師やスタッフが難関大受験に役立つ情報をお届けします。
今回ご紹介する第3回目は、河合塾数学科講師の西浦高志が京都大学入試の数学を振り返ります。
京大数学 思考する力に力点 ~解法のアイデア 伝える意識を~

2021年は新型コロナウイルス禍にあって社会の状況が急変し、入試においては学習進度や環境の変化に配慮して、あらゆる点で対応を迫られる激動の中での実施だったのではないかと思います。受験生の負担や不安もかなり大きかったことでしょう。
その中で、2021年の京都大学の入試(数学)においては、問題の難易度に配慮しつつも、本質的に受験生に問いたい内容に変わりはなかったように思います。それは、答えに至るための「アイデア」を試行錯誤の中から見つけ出し、解く過程を正しい「論理」の積み重ねで答えるということです。京都大学の入試では、自分で考え、工夫し、答えることを大切にし、受験生の思考する力を引き出すことに力点が置かれています。したがって、例年設問の誘導はほとんどありません。問題の内容は知識や極端なテクニックに走ったものは少なく、どちらかといえば素朴な問題が多いような印象です。どこにでもあるような素朴さでありながら、既存のパターンを知っている受験生が、「単純に」当てはめようとすると上手くいかないようになっており、「いつもとの違い」を問う形になっています。また変数の設定や座標軸の設定など、解くための「舞台」を用意するのも受験生に任せ、「自主性」を重んじています。そこには受験生の自分発の発想を妨げないという意図が感じられます。
2021年の入試も解法につながる誘導はほとんどなく、受験生の自由な発想を積極的に促すものでした。理系は解くにあたって、道具(数学の分野)をいかに選ぶかが勝負であったと思います。文系は難易度こそ例年に比べ抑え気味でしたが、受験生がミスをするところをよく理解した出題でした。また、少し設定を変えればさらに思考力が必要な問題になるものもあり、解法の検討から新しい発見につながるものがありました。
筆者の立場からでも感じることですが、受験生の自由な発想を受け入れるということは、それだけ多く提示された「方法」を検討することになり、採点に苦労するということです。さまざまな「アイデア」に対して一つ一つ検証し、その完成度を評価するのは並大抵のことではありません。受験生は、そのことを意識して、全力で答案作成に臨んでもらいたいと思います。答案作成の上で大切なことは、相手に「伝える」という意識です。いくら正しいことを書いたつもりでも、伝わらなければ良い評価にはなりません。自分が何を考え、どういった方法でその答えに至ったのかを明確にし、ちゃんと相手に伝わるものになっているかどうか振り返ることを心がけたいものです。
来年度以降も、受験生の思考する力を積極的に引き出そうという京都大学のスタンスは変わらないでしょう。であるからこそ、今の学習を単に入試のために受け入れるのではなく、自身の力を引き出すためと自覚して取り組むことが大切です。われわれ講師もそれは同様であると思います。
※本寄稿は、新聞掲載が最も遅い産経新聞社の掲載日以降に、同紙から原稿提供を受けて掲載しています。
執筆者のプロフィール

▶河合塾数学科講師 西浦高志
大学受験科・高校グリーンコースでは東大・京大・医学部レベルの講座からハイレベル講座まで幅広く担当しています。また、「京大オープン模試」作成チーフや難関大学対策教材の執筆、河合塾マナビスの映像授業も担当し、多岐に渡り活躍しています。熱心な指導には定評があり、数多くの生徒から絶大な信頼を得ています。
※ 2021年7月掲載時点