不登校生・中退生に寄り添い、未来を後押しする 河合塾COSMO・サポートコース梅田の取り組み

文部科学省の令和6年度調査によると、不登校の生徒数は小・中・高合計で約421,752人に達しています。
同調査にて、不登校の理由についてのアンケートを行った結果、「学校生活に対してやる気が出ない等」(小中約30.1%、高校約26.9%)、「生活リズムの不調」(小中約25.0%、高校約26.2%)、「不安・抑うつ」(小中約24.3%、高校約16.0%)が上位を占め、学習面のみならず日常生活や心理面の支援、安心して過ごせる場所づくりの重要性が示されています。
さらに、不登校生をサポートする情報提供や取り組みは小中学生向けに充実している一方で、高校生向けの支援や大学進学に関する進路情報は十分とは言えないため、本人や家族が不安を抱えることも少なくありません。
河合塾では、大学進学を不登校・中退生のひとつの「出口」として位置づけ、河合塾COSMO(東京)、サポートコース梅田(大阪)で30年以上にわたり進路支援を続けてまいりました。本稿では、2拠点の現場での取り組みや担当者の声をお伝えします。
河合塾COSMO
「河合塾COSMO」は、15歳から20代の若者が、高卒認定試験や通信制高校の単位取得を経て、大学進学をめざすための予備校です。
1988年の開校以来、中学基礎のレベルから難関大学向けの授業までを担う河合塾講師と、学習だけでなく、生活面・メンタル面をサポートする平均勤続18年以上の「フェロー」と呼ばれるスタッフが協力し、生徒一人ひとりのペースに合わせて、安心できる居場所づくりに取り組んでいます。
数年のブランクを経て大学進学をめざす20代の方も3割ほど在籍しています(2025年度)。2026年春からは通信制高校と提携し、進路支援の幅をさらに広げています。
そんな河合塾COSMO(以下コスモ)の取り組みや最近の生徒の傾向について、長年コスモでフェローとして生徒・保護者の対応を重ね、公認心理師の資格ももつ林哲也さんにお話をお伺いしました。

大学に近い自由度の高いカリキュラム 再スタートに向けゼミやサークルが重要な役割
林さん「コスモのカリキュラムは自由度が高く、5教科の授業を中心に、講師が担当する「食ゼミ」、「笑うゼミ」など8つのゼミやフェローが主催するサークルがあります。
不登校・中退の経験者が多いコスモ生には、起立性調節障害*など心身の不調を伴われる方が少なくありません。遅れを取り戻そうと、最初に張り切って時間割を詰め込んでも、身体がついて来ず、ほどなくダウンすることも多い。ですので、時間割は柔軟に変更できます。当初は週1回から始めたり、ゼミやサークルから始めることもあります。一緒にご飯を食べたり、ギターを弾いたりなど、一見プラスアルファの活動に見えるゼミやサークルですが、不登校・中退によるブランクをもつ生徒にとって通学のハードルを下げる重要な役割を担います。」
*起立性障害:起立時に頭痛、めまい、倦怠感などの症状が出る病気。午前中に多く、朝起き上がれないことも多い。中学生の1割程度に見られ、不登校の原因のひとつ。「周囲からは怠けやサボりと思われることも多く、二次障害としての辛さも大きい」(林さん)



とはいえ、ブランクを持つ生徒さんの中には毎日の通塾に負担を感じる方も多いのが実情。通いはじめを中心に授業を休みがちな方は一定数見受けられます。このような欠席に対してもコスモでは柔軟に対応しています。
「(心身の不調により)授業や模試を受けられない生徒も多い。くれぐれもコンディション*優先で、模試に行けたら、『お疲れさん、良く行けたね』といった声掛けをしています。」(林さん)
*コンディション:コスモでは生徒のコンディションが重視される。不登校や中退を経てコスモに入塾する生徒は心身両面にわたって厳しい状況であることも多い。入塾後は心と身体の調子をあげて受験に耐えられる状況に持っていくことが当面の目標となる
まじめで心配りができる子が多い~不登校・中退生の横顔~
最近の傾向として、私立の中高一貫校、特にトップ校を中退し入塾する生徒が多く、特徴として「まじめで優しく気配りができる子が多い」と林さんは話します。
「昨今の『加熱する中学受験』の文脈でいうと、頑張りすぎてショートしてしまった方が多い。合格して受験が終わったと思ったら、進学先でも優秀な人ばかりでまた競争が始まる。親の期待に応えたい、トップにいなければと頑張りすぎ、燃え尽きて不登校・中退となってしまう典型的なケースです。」
一方で、近年拡大している通信制高校に在籍する生徒も多く、コスモ生の半数は通信制高校との掛け持ちです。通信制は高卒資格を得たい生徒や保護者のニーズ*に応える半面、「個々の大学の受験対策や進路指導に限界がある」というケースも。
特に受験準備をしたい学力層にとって、河合塾のノウハウで学べるコスモは希少な選択肢*として、塾生やその保護者から信頼を得ています。
コスモならではの特徴として、学習が軌道に乗ってきたら、コスモの授業に加えて河合塾新宿校の大学受験科(高卒生コース)の授業を受けることができます。
難関大の志望者を中心に例年、併用受講される方もいらっしゃいます。
*通信制高校のニーズ:高卒認定(高認)を取得しても学歴上は中卒となるため、高卒資格がとれる通信制高校のニーズは根強い。一方で進学校出身者など大学進学を前提とする高学力層は、提出物が多く忙しい通信制はあえて避け、手際よく高認を取得しコスモで受験勉強に専念というケースも多い
*希少な選択肢:90年代頃には他の大手予備校も手掛けたが、現在コスモと同種のコースを持っている予備校はほぼない
同じくコスモで長年勤めている鶴田博美さんは、「どれだけ受験の当たり前を外せるかが、コスモでは大事」と感じています。
「受験生のあるべき姿、たとえば1日何時間勉強する、教科書はすべて理解する、模試は受けて当たり前、といった真面目さ。これに縛られると負担が大きくなりコンディションを崩すことが少なくない。」と言います。

一歩を踏み出すための「足し算、足し算の関係性」、そして「肯定感」
さまざまな取り組みを行うコスモですが、不登校・中退といった停滞状態から一歩踏み出すには「生徒との関係性」が重要、と林さん、鶴田さんはお話されます。
ゼミやサークルへの参加は、停滞から踏み出すきっかけになるもので、ゼミやサークルの存在に魅力を感じて入塾を決められる保護者も多くいらっしゃいます。
その一方で、「ゼミやサークルに参加できたことで『もう元気だから受験対策をやろうよ』、となると失敗することもある」(林さん)と言います。あくまで「踏み出すペースは本人に任せる」がコスモの基本です。
とは言っても、誰かが引っ張らないと進まないケースもなかにはあります。そこで重要となるのは生徒との「関係性」であり、そのベースは「肯定感」だと林さんは話します。


「授業に行けない。模試に行けない。成績は伸びない。ここにはうまくいかないことが山ほどあります。それでも『よく頑張ったね』 『また今度誘うからね』 『だいじょうぶ、だいじょうぶ』という肯定的な関係を維持する。なぜなら、もう彼らは学校や家庭、そして自分自身で、否定感を山ほど積み上げているから」
この否定感を解きほぐすのは「足し算、足し算の関係」だと林さんたちは考えます。「OKOK!模試行けたじゃん」 「午前中から校舎来るなんてえらいえらい」そういった肯定的な関係を積み上げた結果、ようやく「そろそろ勉強しないと間に合わないよ」といった言葉が通じるようになるといいます。そのために、週1回スタッフ全員で行うミーティングでは、一人ひとりの生徒の現状を共有し、どこまで踏み込んだ声かけができるか、時間をかけて検討しています。
「親が心配していると、子供はずっと不安」~親の焦りを解きほぐす一言は?~
「そうじゃなくてもいいんですよ、お母さん」
鶴田さんがコスモに来てからよく使う一言です。コスモ生の保護者は生徒同様にまじめな方が多いのが特色です。そこで入塾当初は『毎日来なくてもいいのですよ』とか、『模試を受けられなくても大丈夫ですよ』といった声かけから始まります。
子どもの不登校・中退を前に「焦りは親の方が大きい」と鶴田さん。しかし、停滞状態から前に進むためには、保護者の安心は欠かせません。
そこでコスモは保護者サポートにも力を入れています。保護者との面談では、38年間の蓄積から「ここにたくさんの事例がありますから」と具体例をお伝えすることで安心感を深めていただいています。年3回の保護者会ではフェローとコスモから大学に進学された卒業生が座談会を行い、日々の取り組みや大学進学後について分かりやすく伝え、この先のビジョンをイメージしていただいています。

一方で、鶴田さんは保護者が主役として話す茶話会を年に4回ほど主催。保護者同士で悩みや気づきを共有し「気持ちを楽にしてもらう」ために取り組んでいます。茶話会を契機に、保護者からの深い相談が寄せられることもあるそうです。
「言葉を追わずに心を追う」~不登校・中退生と向き合う塾の現場~
コスモを訪れる不登校・中退の経験者のなかには、「偏差値30だけど東大に行きたい」といった、すごく理想が高い、現状とのギャップを抱える方が時々います。
このような発言の背景は心理学で「取り戻し」と呼ばれています。
今までの自分の劣等感を挽回し、遅れを取り戻すには、普通の進学先じゃダメなんだという心境が表れたもの。
「『言葉を追わずに心を追う』と言いますが、一見、非現実的な希望でも、不登校のような経験から見れば、ある意味で自然であり、何とかしなきゃというまじめな気持ちや向上心の表れとも言えます。『そういう気持ちなんだな』とまずは肯定的に受け止めてみる。なかなか難しいですが、否定感から入ると関係性は構築できないと思います。」(林さん)

最近のコスモ生の受験状況について
林さん 進路としては専門性の高い領域への進学が多いと感じます。理学、工学、農学、生物学、心理・哲学・歴史・芸術、情報、医薬系など、比較的小規模な学科に進み、専門家のもとで学ぶために大学へ行くという傾向が見受けられます。
真面目な方が多いですから、学費の負担をかけたくないと『できれば国公立大学』という希望から始まることも多いですね。国公立大学受験は科目数が多く大変なので、オーバーワークやメンタルが崩れないよう面談を繰り返し行い本番までサポートします。
安心して話せる関係性を維持する中で、コンディションが安定し、難関校合格につながるケースも少なくありません。
受験校選びの際には一般的な入試難易度の高低という軸から、『自分にとって何がよい選択か』という自分軸に移行していることを感じます。いたずらに難関校を目指すのではなく、等身大の、少しゆとりをもった選択をすることによって、入学後には関心分野の専門家(教員)のもとで、活発かつ優秀な学生として活躍している話をたくさん耳にしています。大学院へ進む学生も多くいます。コスモ生の真面目さや物事を深く探求する志向にぴったりだと思います。
実際に受験する大学は、不登校や高校中退を経験したからこそ、『選択をまちがえたらどうしよう』、『本当にこの進路でいいのだろうか』と、深い迷いが続くのはごく自然なことだと思います。スタッフも、内心ヒヤヒヤしているところもありますが、いざ気持ちが固まった時に、慌てず出願や学習プランのサポートができるよう準備をしています。
コスモでは一般的な合格実績、合格率という尺度で測ることが難しい大学受験のプロセスがあります。いわゆる難関中高一貫校を中退してくる方もいれば、小中時代の不登校から、自分の能力が埋もれた状態で来られる方もいます。よって、一人一人に極めてオリジナルなストーリーがあり、そこへ伴走することに何よりの醍醐味を感じています。
最後に
林さん 不登校の生徒が増えている背景には、社会全体の受け止め方の変化があると思っています。以前は『学校に通うことが当たり前』という価値観が強かったですが、今は『学校に通うだけが価値ではない』という認識が広がっています。
一方で、本人にも理由が分からないまま不登校になるケースが増えていることも実感しています。
少しずつ違和感が積み重なり不登校になることもあれば、急に身体の中が枯渇してしまったような感覚になる『バーンアウト型』も増えています。努力家で周囲の期待に応えようとする生徒ほど、燃え尽きは突然訪れやすい。トップだった生徒が2位になったことがきっかけに心身のバランスを崩してしまったケースもありました。
また、不登校が長期化しやすいことも課題の一つです。
『どう再スタートを支えるか』という視点も必要です。私は、転校や編入をもっと柔軟に認めることで、不登校の長期化を防げる可能性があると考えています。

実際、社会に出れば、同じ職種の中で転職する人はたくさんいます。学校も同じようにキャリア教育の一つとして、もっと流動的であってよいと思います。
こうした課題がある中で、コスモに求められるのは、生徒にとって「安心できる居場所」であり続けることだと考えています。
そのため、コスモでは『焦らなくてよい』『ゆっくりでよい』と伝えながら、安心して過ごせる場であることをこれからも大切にしていきます。
河合塾サポートコース梅田
2024年に開設25年目を迎えたサポートコース梅田(以下、サポートコース)は、1999年3月、主に通信制高校に通われる15~18歳の生徒を対象に、河合塾大阪校の一角でスタートしました。
通信制高校の単位取得や高卒認定試験対策のためのコースではなく、その先の大学進学をめざすコースです。
現在64名が在籍し、8割が通信制高校の生徒(25年度時点)。その生徒をスタッフ3名が、講師や個別指導の学生アルバイトとともにサポートしています。
サポートコースについて、三宅智之さん、内藤美帆子さんにお伺いしました。


サポートコースの特徴~それぞれのペースで続けられる時間割に~
在籍している生徒は中学生の頃に不登校となり、高校進学の際に通信制を選んだ方が多い。不登校の原因は起立性調節障害、いじめ、小学校からの不登校などさまざまです。

「サポートコースは、昼間にも授業を開講しています。」と三宅さんは語ります。
コスモと同様、保護者の方には、お子様の昼間の居場所として安心感を抱かれる方が多いとのこと。
「また、各教科とも徹底して基礎から授業をします。希望者は個別指導も選べ、中学の単元にさかのぼることもあります。サポートコースは心身の負担が大きい通勤・通学ラッシュを避けた2限目(11:20)からのスタートです。自分で講座を選べますので、自分のペースに合わせて通塾しやすい時間割を組むことができます。」(三宅さん)
中には授業をたくさん詰め込む生徒さんもいるそうですが、「そんなに取りすぎない方がいいよ」とアドバイスすることもあります。

生徒によって、得意科目は高校グリーンコース(河合塾現役生コース)の授業を併用して受講しています。
サポートコースで生活リズムを整えつつ、得意教科は高校グリーンコースで学ぶことで、効果的に受験対策を進めることが可能です。
「塾とサポートコースの両方を見学して決めてもいいと思っています。ここには無理せず体調と付き合いながら勉強を進めていく環境がありますので、ブランクがあった方にはおすすめです。」(三宅さん)
距離感を大事にしながら、来た生徒全員に声がけ
さらに、サポートコースは、生徒さん一人ひとりで異なる「距離感」を大切にしているとのこと。
「まずは、塾に来られた生徒一人ひとりの体調を気遣いながら、登校した全員に声がけします。距離感は通常の対人関係でも必要ですが、サポート生の場合はさらに大事にしなければと思っています。顔を見ながら、どこまで話していいかを常に考えながら話しています。」(内藤さん)
サポートコースのスタッフは、通塾している全ての生徒さんの情報を共有し、チーム一丸となってサポートしています。

保護者との関係性
「2024年から、年3回の保護者会に卒業生の保護者を招いて、経験談を語っていただくようにしました。
『なかなか情報交換の場がないのでありがたい』と大変好評いただいています。
受験や体調面、精神面の不安を保護者は感じています。その不安について聞いたり、共有したりする機会がない保護者の方も多くいらっしゃいますので、サポートコースでは保護者へのサポートも大切にしています。」(三宅さん)
卒業生の保護者による講話は、経験者の生の声が聞ける滅多にない機会であり、サポートコースならではの取り組みです。
最近のサポートコース生の受験状況について
三宅さん「サポートコースに通われる生徒の多くは、一般選抜や学力テストを伴う公募推薦型選抜など、教科試験が課されることが多いです。毎年、国公立大学へは数名が進学しており、多くは関関同立や産近甲龍といった私立大学に入学しています。とはいえ、サポートコースに在籍している生徒たちは『有名大学に入ること』よりも、『自分のやりたいこと』『興味があること』『通いやすさ』を重視する傾向があります。
これを受け、私たちも学習指導だけでなく、一人ひとりが納得した進学先を選べるよう、丁寧に志望校選びをサポートしています。」
最後に
三宅さん ある生徒が、サポートコースに入塾した当初は、週1回短い時間だけ授業に参加するのがやっとでした。中学時代に学校に行けなくなり、通信制高校を選んだものの、学習のブランクや生活リズムの乱れから先の見えない不安を抱えていたのです。
私たちはまず『ここに来れば安心だ』と思ってもらえることを第一に考えました。
学習面では基礎に立ち返ることを大切にし、必要なら中学の単元にさかのぼって学び直しをしました。短時間から徐々に授業に慣れていき、体調と相談しながら講座量も増やしていくことで、生活リズムが整い、自信が少しずつついてきているようでした。
高卒認定試験に向けた学習も通常の勉強と並行して取り組み、無事取得。通信制で必要な単位もクリアした後、志望していた大学の合格を勝ち取りました。
進学後も大学の授業内容やサークル活動の話を報告しにたまに来てくれます。この瞬間はスタッフにとって何よりの励みです。
わたしたちの仕事は、単に試験に合格させることではありません。生活リズムを取り戻し、自分のやりたいことを言葉にできるようになり、それを実現するための道筋を一緒に描くことです。
入塾される生徒さんやその保護者が安心して学び、着実に進路を切り拓けるよう、これからも一人ひとりの歩幅に合わせてサポートしていきます。