『ミライの選択』導入校を訪ねて 多面的な視点を育み、納得の進路選択へ
ミライの選択
高校・中高一貫校の授業プログラムとして河合塾が開発し、これまで延べ1万人が受講しています。意思決定のプロセスに沿ったワークを通じて自己理解を深めながら、納得のいく進路を選ぶ方法を身につけます。

オイスカ浜松国際高校
静岡県浜松市にある私立高校。国際NGOオイスカ・インターナショナルを設立母体に1983年に開校。県外出身者、海外からの帰国生、外国人留学生、外国籍生徒が多数在籍し、国際的な視野を広げる教育が特色。環境教育として地域での体験型学習にも力を入れる。卒業後の進路は就職、専門学校・大学への進学など多様で、学業・スポーツをはじめ生徒一人ひとりの挑戦と夢の実現を支援する。『ミライの選択』は2025年に導入し、継続採用している。
公式ホームページ https://www.oisca.ed.jp/

【お話を聞いた方】
オイスカ浜松国際高校 進路指導部副部長 澤柳 一貴(さわやなぎ かずき)教諭
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生徒に合わせたカリキュラムの工夫 ―高校独自の授業を取材

「前回までの授業では、職業や学問の選択肢をグルーピングしましたね。それを踏まえて今日は・・・」
6月某日の7限、澤柳先生の一声で授業が始まりました。受講するのは進学を希望する2年生の生徒たち。特進クラスの生徒を中心に、希望者が合同で参加しています。
同校では、『ミライの選択』の授業プログラムを1カ月に2コマ程度で、1年間かけてプログラムを受講します。
1学期は、職業や学問の選択肢を広げ、整理するワークを中心に取り組みました(右図参照)。

ワークを通して興味のある進路が具体化してきたところで、次のステップは、「学校のホームページを見てみる」「オープンキャンパスに参加する」こと。本日は1学期の最終回にあたり、そのためのレクチャーを行う、同校が独自に加えた1コマでした。

「うちの学校の生徒は、理論から入ると拒絶してしまう子が多いんです。そこで、理論は後回しにして、『分かりやすい話題や具体的な行動』を先に見せてあげるアプローチを採りました」と、澤柳先生はアレンジの背景を語ります。
「はじめに学問と職業について視野を広げる授業を扱い、その流れで1学期のまとめとしてオープンキャンパスの話をすることで、夏休みに実際に見学に行き、学びが綺麗にまとまるなと考えて全体の構成を大きく変えました」
授業の終わりには生徒たちに対して、夏休み中にホームページやオープンキャンパスで情報収集をするよう、宿題が課されました。澤柳先生は「2学期では『なぜそこに興味を持ったのか?』を掘り下げ、価値観や判断基準を整理していきます」と今後のテーマを伝え、1学期のプログラムを締めくくりました。

生徒さんにインタビュー ―プログラムを通し「視野が広がった」
プログラムを受講したMさんとIさんに、ここまでの授業の感想を聞きました。
授業を受けてどんな変化がありましたか?
Mさん: 授業を受け始めた当初は、身近な学問や憧れの職業ばかりに目が向いていましたが、授業を通して他の学問や職業もいいなと、視野が広がりました。
Iさん: 視野が広がったのは私も同じです。また、これまで将来のことは頭で考えるだけで、書き出すことはなかったのですが、ワークを通して手を動かしたり、他の人に伝えることで自分の考えを文章化する力がついたと思います。
お二人とも、視野の広がりが共通点ですね。具体的にどのように視野が広がりましたか?
Mさん: もともと犯罪心理に興味がありましたが、グループワークで学問マップを作る中で、心理系の学問・職業だけでも、経済系、人間関係系など、たくさんの種類があることを知りました。選択肢が増え、それらも良いと思いましたが、それでも私は最終的に犯罪心理に進みたいと改めて気づくことができました。
Iさん: 私は言語学や外国語に興味がありましたが、新たに哲学や心理学も面白そうだと思えるようになりました。人間について考える点が魅力的だと感じています。自分が興味のあることは何なのか考える良いきっかけになりました。

教員の想い ―生徒たちに納得して進路を選んでほしい
ここからは、授業を担当する澤柳先生にお話をうかがいます。
プログラム導入に当たり、進路指導でどのような課題がありましたか?

卒業生の中に、大学を「早期中退」、職場を「早期退職」してしまうケースがあり、進路指導担当として課題を感じていました。事前に得ていた情報や期待と実態との間にミスマッチがあるのでしょう。大学や職業の表面的な情報だけを伝える指導は避け、生徒本人が納得して次の進路を選べる状態にしたい――それが私と進路指導部長との共通の想いでした。
そのうえで、『ミライの選択』を導入した理由を教えてください
生徒たちが納得して進路を選ぶための「自分で決定する」という観点から、決め方や手順、方法を整理して提示できる教材だと感じたためです。昨年は試験的に1年生に導入しました。
さらに今春、『ミライの選択』が改訂され志望理由書のワークが加わったことが、継続導入の決め手になりました。河合塾からは、余裕のある2年生のうちに「志望理由書の骨組みを一緒に作る」段階まで完了できると説明を受けたため、対象学年を2年生に切り替えて実施しています。3年生は学科試験の勉強も本格化し、志望理由書に割ける時間が限られますからね。
また、志望理由書は大学進学における総合型・学校推薦型選抜はもちろん、専門学校や就職も含め書類審査による選考では避けて通れないため、本校の生徒には非常に重要なワークだと考えています。
魅力のひとつは、取り組みやすい自己分析ワーク
『ミライの選択』のプログラムや教材はどんな点が魅力でしょうか
例年、3年生になってから「自己分析がなかなかできない」「自分が大事にしている価値観がわからない」という相談を多く受けてきました。そうした背景から、1・2年生のうちに決め方を学びつつ、自己分析もできる点が良いなと考えています。
また、テキストは記入欄やワークの配置が明確で見やすく、生徒が取り組みやすいと感じます。教員としても「何ページのこのワークだよ」といった指示が出しやすく、授業運営の面で助かっています。

プログラムの順序はかなり大胆にアレンジされていますよね
生徒の気質に加え、学校として部活動にも力を入れているため、部活動の曜日や時間と重複しないように構成したかった思いがあります。メインとなる対象は特進クラスとしていますが、特に志望理由書のワークは、専門学校や就職を希望する生徒にも有効だと考えています。
最終的には希望者を中心に放課後に集まる任意参加の形に落ち着き、各回10〜20名程度の生徒が受講しています。

生徒の「質問力」が変化 ―物事の見方が、「点」から「多面的」に
『ミライの選択』を通し、生徒にどのように育ってほしいとお考えですか?
何かを決めるということに対して積極的になってほしいという思いでやっています。本校には、学力に自信が持てない生徒や、これまで学校行事で中心になってこなかった生徒など、「自分らしさ」を発揮せずに過ごしてきた生徒が少なくありません。そうした生徒たちにとって、自分を見つめ直す機会や、自分について考えるきっかけになってほしいと考えています。通常の一斉教授型の授業だけではなかなか主体的に学ぶ態度を引き出しきれませんから、『ミライの選択』は主体性を生むための導線として位置づけています。

また、教員用ガイドブックにある「『ミライの選択』は、正解を導くプログラムではありません」というフレーズが気に入っています。初回の授業で「最後は君たちが自分で納得して選択し、将来を考えて卒業していくんだよ」と生徒たちに伝えています。
授業を振り返り、印象に残っているエピソードはありますか?
初回の授業終了後に、ある男子生徒が居残って、「俺、将来心理系の進路を考えているんだけど、どこかいいところとか、見ておいた方がいいことってありますか?」と個人的に質問してきたんです。私からは「心理で何をやりたいか明確にすることが大事だよ」と助言したのですが、自主的に参加し、さらに放課後に残ってまで質問してくる生徒が何名か出てきているのが嬉しいですね。
嬉しい変化ですね。ほかにも前向きな変化はありますか?
明らかに、生徒の「質問の仕方」が変わりましたね。以前は「ここがわからない」といった漠然とした聞き方しかできなかった生徒たちが、「ここの、この部分の、こういう点がわからない」といった具体的な聞き方をできるようになりました。未来のことを考える場面も、以前なら「英語を頑張ろうね」で終わっていたのが、「具体的に英検はどの級や点数を目標にすればいいですか?」といった、明確な目標や詳細まで、自分から踏み込んで質問してくるようになったんです。そうした姿を見ると、ちょっと成長しているのかなと感じますね。
ワークを通じて他者と意見交換したり、自分を俯瞰したりすることで、自己理解が深まり、質問の解像度が上がったということでしょうか?
そうですね。「視点が広がっている」という表現が一番合っているかなと思います。これまでは「点」でしか物事を見られなかった生徒たちが、多角的・多面的に物事を捉えられるようになっている。個々で差はあるにしろ、高校生のうちにそうした多面的な視点を身につけられるのは、とても幸せで、大事なことだなと思っています。

生徒と教員、共通の道しるべにしたい
今後の活用に向け、展望を教えてください
現在は私が一人で授業を担当していますが、将来的には担任の先生方が、各クラスで導入できる体制にしたいと考えています。生徒だけでなく、教員にとっての道しるべにもなってくれればと。
課題としては、私も進路指導部もまだ学校全体に十分に広め切れていないと感じています。しかし、このプログラムの最後に「志望理由書を書く」というステップがあることで、最終的に教員の負担軽減にもつながると進路指導部長と話しています。静岡県内の他の私立高校の話を聞くと、多くの高校で「3年生の担任の負担が大きい」という悩みを抱えているのです。このプログラムを使い、2年生のうちに志望理由書の基礎部分を固めて3年生を迎える流れを作れればと考えています。クラスやコースに関わらず、できるだけ多くの生徒が受講することで生徒だけでなく、教員側も助かりますね。そういった意味で、『ミライの選択』には大きな期待を寄せています。
運営する企業・学校
学校法人 河合塾
小学生~高卒生を対象とした教育事業や高等学校などを対象とした教育活動支援事業、新たな教育価値を創造するための教育の研究・開発活動を展開しています。