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未来のマナビフェス2019 実施報告vol.13人生100年時代のキャリアと働き方

登壇者:田中聡(立教大学/株式会社パーソル総合研究所)、有沢正人(カゴメ株式会社)、川浦恵(経済産業省)

日本では2016年に刊行され、大反響を呼んだ『ライフ・シフト』。同書は、人生100年時代において私たちが経験することになるとされるさまざまな変化を、多くのデータをもとに示している。同書において示唆されているような、今後ますます本格化するであろう社会的変化を見据え、キャリアと働き方の今に迫る本セッション。モデレーターを務める田中聡氏から、「人生100年時代」のキャリアと働き方、そしてその支援の在り方を「個人」と「企業」と「政府」のそれぞれの視点を交差させて考えることの意義が示され、本セッションが幕を開けた。

学び人生100年時代において躍進を続ける個人像

田中 聡(たなか・さとし)
田中 聡 氏(立教大学/株式会社パーソル総合研究所)

「変化に対応し、躍進し続けられる個人の特徴とは?」という田中氏の問いかけからセッションは始まった。田中氏によれば、日本型雇用システムの転換によって最も大きな影響を受けているのは大企業に勤める中高年層なのだという。というのも、彼らは新卒で大企業に入社して以来、家族のため・出世のために長時間労働と全国転勤をいとわず会社に貢献し続けてきた、いわば「企業主導型キャリア」の時代を生きてきた人々である。それがキャリアの中盤から後半に差し掛かる今になって、急に「個人主導型キャリア」としての歩みを求められるようになったわけだ。彼らにとってこうした日本型雇用システムの大転換が、「心理的契約の不履行」として映るのも無理はないだろう。

だが一方で、この転換期において躍進していくミドル・シニアも一定数存在するのも事実である。パーソル総合研究所と法政大学石山恒貴研究室が明らかにしたところによれば、躍進層には共通する5つの行動特性があるという。

躍進層に共通する5つの行動特性
躍進層に共通する5つの行動特性

こうした特性との関わりにおいて躍進の鍵となるのが、「学び」と「多様性」であると田中氏は指摘する。これまでの経験を分析し、置かれる状況が変化したとしても、経験の蓄積から得た知識を応用することができるような学びを身につけているか。世代や年齢という概念に縛られることなく年下の上司とも円滑に仕事を進めることのできる多様性に開かれた心性を持ち得ているか。こうした行動特性を培っているかが、「人生100年時代」においてジョブパフォーマンスを発揮し続けることができるか否かの命運を分けるというのだ。

また、自身のキャリアを「出世軸」ではなく「仕事軸」で捉えることも重要になってくる。昇進や昇格に対する見通しをモチベーションとするにとどまらず、自身の専門性の向上や仕事による成長を実感できているかどうかが鍵となるのだ。従来のように所属している企業に自らのキャリア形成を委ねるのではなく、個人が自分のキャリアのオーナーシップを持つことが社会の変化に対応し躍進を続けるために求められる特徴となるだろう。最後に、個人が学び・躍進し続けるためには企業と政府による支援と、学校教育のさらなる革新こそが必要となることを提起し、後につづく登壇者へとバトンが渡された。

個人のキャリアをサポートする企業の在り方

有沢正人(ありさわ・まさと)
有沢正人 氏(カゴメ株式会社)

続いて、カゴメ株式会社の常務執行役員CHOを務める有沢正人氏から、個人の躍進を支援する企業の取り組みの事例をもとに、「個人の躍進を支援する企業の取り組みとは?」というモデレーターからの問題提起への応答が試みられた。7年前にカゴメに入社したという有沢氏だが、当時社内では人事部がほとんど機能していない状態であったと振り返る。有沢氏はまず、役員レベルの意識を変えるところから改革に着手していったという。「従業員のために何をするかを考えなければ、会社は持続できない」という考えのもと、トップを巻き込みながら、社員の自律的成長を促す制度変革に取り組んでいった。

改革を進めていくなかで、すべての社員のキャリア開発を支援し、評価体系の見直しと研修の充実を図った。この変革の主眼はあくまで個人のキャリア形成のサポートにあり、自社はもちろんのこと他でキャリア上昇をめざす選択も奨励していったという。社員の成長が組織の成長へ、そして広く社会の成長へとつながっていく。「人生100年時代」といわれる今、企業が個人のキャリアを支援するということは、新しい仕事社会のあり方を構想することに参与するということでもあるだろう。

個人軸に基づくキャリア支援において政府に求められる役割

川浦 恵(かわうら・めぐみ)氏
川浦 恵 氏(経済産業省)

続いて、経済産業省経済産業政策局産業人材政策室の川浦恵氏から、政府による個人支援の取り組みについての紹介がなされた。近年の労働市場を取り巻く環境の変化、雇用の質の変化は、個人のキャリア形成にも大きな影響を与えている。たとえば高齢化および長寿化に伴う老後期の長期化、あるいはデジタル化に伴うスキル別就業率の変動など、労働市場はすでに大きな変化の渦中に置かれているのである。


こうしたマクロな変化を背景としながら、個人レベルでは副業・兼業といった多様な働き方を希望する人々が増えている。したがって、従来型の終身雇用を前提とする企業と個人の関係性は、個人のキャリア形成をベースとしたものへと再構築され、働き方の多様化は一層進んでいくものと予想される。こうしたなかで、自律したキャリア形成に向けて学び続ける個人を支援していくことが、政府にも強く求められていると川浦氏は述べる。こうした要請を受けて、経済産業省は今後、過去の経験を通して学んだことを未来へとつなげる「リフレクション」を軸とした社会人基礎力の育成をめざした、産学協働のキャリア教育推進事業を進めていくという。

会場の様子

「人生100年時代」において躍進を続ける個人の特徴、そしてそれを支援する企業・政府の取り組みを論点として各登壇者による発表が行われた本セッション。基調報告ののちに、3名の登壇者によるパネルディスカッションが行われた。本セッションで確認されたように、キャリア形成や働き方は今日大きな転換期に直面している。就職したのちにキャリア(あるいは出世)を考えればいいという時代はすでに過去のものである。キャリアの形成は中学校や高校より早い段階から、主体的に向き合うべきものとなっている。とはいえ、自らのキャリアのオーナーシップを持ち、学び続けていかなければならないという点では、これから仕事社会に参入する世代も、すでに仕事社会でそうした変化にさらされている私たちも同じ課題を共有しているのである。


※本文中の所属・役職などは開催当時のもの

※このページは日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)によって制作されました。

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