「私と河合塾」スピンオフ

河合塾グループ卒業生・田中克明さんが中高生に向けて語る、宇宙産業の最前線と広がる未来

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河合塾グループ卒業生で、宇宙体験コンテンツや宇宙開発支援を手がける株式会社amulapo(アミュラポ)代表の田中克明さんが、中高生が自分の興味・関心を見つけ、深めるきっかけとなるイベント、K-SHIP フェス「みらい探究の日」に登壇されました。講演では、自身のキャリアを振り返りながら、宇宙産業の最前線と、その先に広がる未来の可能性を語りました。

「みらい探究プログラム K-SHIP」は、多様なテーマで学びを深め、中高生一人ひとりが自らの可能性を広げていくことをめざすオンラインプログラムです。

今回登壇した田中さんもその一人。河合塾グループで学び、自らの関心を追究した先で宇宙産業の最前線へと進んだ卒業生として、参加者に自身の経験とメッセージを届けました。
みらい探究プログラム K-SHIP

2026年8月23日(日)開催「K-SHIPフェス みらい探究の日 興味・関心が”みらい”をつくる in メタバース」
【特別講演】宇宙の次はフロンティアか ―エンジニア起業家が挑む未来市場

田中 克明(たなか・かつあき)氏

株式会社amulapo(アミュラポ)代表取締役CEO

平成2年生まれ。茨城県取手市出身。ロボットの専門家、博士(工学)。土浦第一高校卒業後、河合塾松戸校の大学受験科を経て、早稲田大学創造理工に進学。同大大学院の先進理工研究科に在学中、文科省リーディングプログラム、EDGEプログラムなどを経験。また、イタリアの研究機関Biorobotics InstitueにてsubCULTron(国際プロジェクト)、企業インターンとして月面探査レースHAKUTOに携わる。修了後は専門性を生かし、株式会社ispaceで月面探査車のモビリティ開発に従事。在職中に「株式会社amulapo」を設立。代表取締役としてxR、ロボット、AI等のICTを用いた宇宙コンテンツの開発に従事。宇宙をはじめとした科学技術の発展に向けて、科学技術の発信、社会実装や人材育成のための仕組みづくりに取り組む。

株式会社amulapo

宇宙開発の最前線に挑む

講演で「興味を持ったことを突き詰めていった結果、気づけば宇宙開発の仕事をしていました」と田中さんは振り返ります。

中高生時代から、宇宙や科学技術に関心を持ち、科学雑誌『Newton』を読むことも多かったという田中さん。進学した早稲田大学・大学院でロボット工学を専攻。大学時代、東日本大震災後の福島県内で、放射線量を測定する小型移動ロボットの研究・運用に携わり、自身が取り組んでいたロボット技術が宇宙探査ローバー*1にも応用できることに気づきます。また、宇宙関連企業のスタートアップispaceの経営者による講演を聞いたことをきっかけに宇宙産業への関心を深め、同社でインターンに参加。民間月面探査プロジェクト「HAKUTO」*2において、月面探査ローバーの駆動系・電気系の選定や試験を担当します。その後、同社へ就職し、「HAKUTO-R」において、月面探査ローバーのモビリティ設計*3に携わるなど、宇宙開発の世界へ進みました。

現在も、xR、ロボット、AI等のICTを活用した、身近に楽しめる宇宙体験コンテンツの提供や宇宙開発支援、地域連携などを通じて、宇宙と社会をつなぐ事業に挑戦しています。

*1宇宙探査ローバー:月や火星などの天体表面を移動して地形や資源、環境の調査を行うロボットや車両

*2HAKUTO:日本の民間宇宙スタートアップ企業ispaceが運営した、日本初の民間月面探査プロジェクト。国際的な月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に日本から唯一参加し、注目を集めた。プロジェクトでは、月面を走行する無人探査車の開発などに取り組む。その技術や経験をもとに、「HAKUTO-R」では、月面への物資輸送や月面データの取得・提供を通じて、月と地球の間に新たな商業経済圏を構築することをめざす。

*3モビリティ設計:宇宙探査において月面や火星などの荒れた未知の地形を、安全かつ確実に移動するための足回りや駆動システムの設計。一般的な自動車の設計とは異なり、極限環境(極低温、真空、微小重力、細かで鋭利な砂や塵など)で立ち往生しないための高度な工学技術が求められる

宇宙は意外と身近な存在

「宇宙はどれくらいの高さから始まると思いますか?」講演の冒頭で、田中さんは、参加者に問いかけました。

講演会場はメタバース(ovice)。参加者がアバターで自由に出入りできます

飛行機がおよそ10kmの上空を飛ぶ一方で、宇宙の始まりとされる高度は100km。また、400km上空を周回している国際宇宙ステーション(ISS)の大きさはサッカー場とほぼ同じ大きさであるなど、身近なものと比較しながら、宇宙をより具体的にイメージできるよう工夫された講演となりました。

スマホを動かして国際宇宙ステーション(ISS)を360度探検できる

ISSでは新薬開発や材料研究、宇宙に広がる粒子の調査や、月や火星に行くための人体への影響調査など、地上ではできないさまざまな実験が行われています。

講演では、「宇宙で水を吸ったタオルを絞ったらどうなるのか」という実験動画や、田中さんの会社で制作した国際宇宙ステーション(ISS)を360度探検できる動画も紹介されました。日本の実験棟「きぼう」やヨーロッパの実験棟「コロンバス」など、マウスやスマホを動かすだけで自由に行き来できるため、宇宙飛行士になった気分を体験できます。

YouTube amulapo【アミュラポ】チャンネル

国際宇宙ステーション(ISS)探検

月面基地構想。進む宇宙開発の現在地

アポロ11号の月面着陸から50年以上経った今、イーロン・マスク氏が火星をめざすなど、再び宇宙開発に関心が集まっています。アメリカや中国、日本、欧州などが月面探査や月面基地構想を進めており、宇宙産業市場も世界規模で拡大しています。

講演では、アポロ計画以来となる有人月面着陸をめざす「アルテミス計画」が紹介されました。これはアメリカを中心に進められている国際プロジェクトで、月面での長期滞在や継続的な探査の実現を目標としています。

計画はすでに段階的に進められており、2022年は大型ロケット「SLS」と宇宙船「オリオン」の無人飛行に成功。2026年には月のフライバイ*4を完了し、2027年の地球低軌道実験*5を経て、2028年の有人月面着陸をめざしています。月面基地をつくり、インフラや生活基盤を整え、将来的には火星探査の拠点とする壮大な計画です。今年4月に発表されたNASAの「Moon Base(月面基地)」計画では、何年に何を建設するのか、人や物資をどう運ぶのかまで具体的に示されており、実現に向けた予算が投じられています。

こうした月面開発は、もはや一国だけで実現できるものではなく、多くの国や企業が連携しながら進める巨大プロジェクトとなっています。日本もアルテミス計画の重要なパートナーとして参画しており、独自の技術や強みを生かしながら月面開発への貢献を進めています。

日本の月面開発は、一企業だけで進めるには技術面・資金面ともに大きな挑戦であるため、JAXA(宇宙航空研究開発機構)や民間企業がそれぞれの強みを持ち寄り、”TEAM JAPAN”として連携しながら共同開発やプロジェクトを推進していると紹介されました。

*4月のフライバイ:探査機や宇宙船が月の周回軌道に入らず、月のすぐ近くを通過しながら観測や撮影を行う飛行

*5地球低軌道実験:地表から高度約200km〜2,000kmの範囲にある地球周回軌道を利用して、新しい技術や機器の性能・動作を実際に宇宙空間で確かめること

「世界の宇宙ビジネスの市場規模は現在、約100兆円とされ、2035年には300兆円規模に成長するとの予測もあります。これは自動車産業に匹敵する規模で、今後大きな雇用や新たなビジネス機会を生み出すことが期待されます。中高生の皆さんにとっても、将来活躍の場が大きく広がる分野です」と、その成長性と可能性を、田中さんは熱を込めて語ります。

日本でも宇宙関連企業が増え、異業種からの投資も活発化しています。講演では、その事例として月面開発を手がける株式会社ispaceが紹介されました。

同社が描く未来の月面社会を紹介する動画では、月面に形成された「村」で研究者だけでなく、農業やエネルギー、医療など多様な分野の人々が生活する姿が描かれていました。月面で社会活動を営むためにはさまざまなサービスやインフラが必要となることから、宇宙開発は幅広い業種の企業や人材がかかわるプロジェクトであることが説明されました。

また、人類が再び月をめざす理由として、「月で水の存在が確認されたことが大きな転機になりました」と田中さんは説明します。水は飲料水としてだけでなく、水素と酸素に分解することでロケット燃料としても活用できます。地球からすべての燃料や資源を運ぶのではなく、月で調達することで輸送コストを大幅に削減できるため、将来的な火星探査や深宇宙開発の拠点としても月が注目されています。

鳥取砂丘から宇宙へ。地域と宇宙をつなぐプロジェクト

宇宙産業は今後更なる成長が期待される一方で、開発や研究を担う人材の育成や、これらの人材が活躍できる場は、まだ十分とは言えません。

課題の解決策として、田中さんが代表を務める株式会社amulapoでは、小学生を対象にARやVRを活用した宇宙体験や、宇宙空間での船外活動や無重力実験を体験できるイベントなど、宇宙を身近に感じてもらうためのさまざまな教育活動に取り組んでいます。

デジタル技術を活用した船外活動や無重力実験を体験。バーチャル宇宙飛行士選抜試験

YouTube amulapo【アミュラポ】チャンネル

バーチャル宇宙飛行士選抜試験 by amulapo

成長する宇宙産業を地域活性化につなげる

同時に、田中さんは、日本の各地域と宇宙を結びつけて新たな産業を起こすことを考えています。
「日本の各地域には、地元に残って働きたいと考える若者がたくさんいます。一方で、その希望をかなえられる仕事が少ないことも現状としてあります。そこで、宇宙に関する産業を各地域で起こし、根付かせることで新たな働き方やキャリアの可能性が生まれるのではないでしょうか」と田中さんは提案します。

その代表的な取り組みが、鳥取県や鳥取大学などと連携して進められている「鳥取砂丘月面化プロジェクト」です。月の表面は「レゴリス」と呼ばれる細かな砂に覆われています。研究者たちは、この環境が鳥取砂丘と類似していることに着目し、砂丘を月面環境の模擬実証フィールドとして活用する研究を進めています。

現在は、砂丘で取得したデータと実際の月面環境のデータを比較・分析しながら、月面探査ローバーやロボットの走行を予測・検証するための実験環境の構築が進められています。地上で得られた知見を宇宙開発へ生かすことで、将来の月面探査や月での活動につなげようという挑戦です。たとえば、月面環境のデータ分析では、月表面の地形をコンピュータ上に3Dデータで再現し、その特徴や構造を詳しく解析します。「テラメカニクス」と呼ばれる分野では、地形や土壌と、車輪やクローラー・掘削機といった機械との間で生じる力の動きを研究しています。宇宙開発は航空宇宙工学だけでなく、機械工学、地球惑星科学、化学、情報工学など、幅広い学問分野の知識が活用されています。

宇宙にかかわる仕事というと、宇宙飛行士や宇宙の謎を探る研究者、ロケットの開発者などを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、教育や観光、エンターテイメントなど、幅広くさまざまな分野が宇宙とかかわっていることが、今回の講演から伝わってきました。また、鳥取県のケースからは、宇宙産業が地域の新たな可能性を広げる姿が見えてきます。

「宇宙は遠い世界の話ではなく、自分の興味や得意なことを生かせる身近なフィールドです」と田中さんは強調されます。参加された中高生にとっても、今までとは違った観点から宇宙を知ることで、自身の将来やキャリアについて考える機会となったのではないでしょうか。

鳥取砂丘月面化プロジェクト

「宇宙で働く」をもっと身近に。中高生から寄せられた質問

田中さんの講演を聞いた参加者からは、宇宙での暮らしや研究、将来の仕事に関する質問が数多く寄せられ、関心の高さがうかがえました。

宇宙で空気をつくることはできるのですか

宇宙空間で人が暮らすための「生命維持システム(ECLSS)」の研究が進められています。将来の月面活動を見据え、月で得られる資源を活用して酸素や空気をつくる研究です。まだ実用化には至っていないものの、今後の月面基地建設や長期滞在に向けて重要な研究分野であり、これから新しい挑戦ができる領域の一つです。

生物分野から宇宙にかかわることはできますか

もちろんできます。たとえば「アストロバイオロジー(宇宙生物学)」という、生命の起源や進化、地球外生命の可能性などを研究する学問分野で、NASAが火星探査を続けている背景には、火星にかつて生命が存在していた痕跡がないかを調べる目的もあります。
日本でもJAXA相模原キャンパスなどで関連研究が進められており、生物学を学んだ先にも宇宙分野で活躍する可能性が広がっています。

宇宙関連で今、注目している企業や活動はありますか

まず世界的な企業であるSpaceXに注目しています。数多くの通信衛星を打ち上げ、宇宙を活用した通信サービスという新たなビジネスモデルを築いており、さらに、AIの普及に伴って増加するデータ処理需要を背景に、宇宙空間でのデータセンター構想なども進めているからです。
日本国内で注目しているのは、北海道大樹町を拠点とする株式会社インターステラテクノロジズの民間ロケット開発の取り組みです。小型で低コストのロケット技術が発展すれば、日本は海に囲まれた地理的条件を生かしながら宇宙輸送分野で強みを発揮できる可能性があります。ほか、宇宙ごみ(スペースデブリ)の除去事業に取り組む株式会社アストロスケールなど、日本にも世界で戦える宇宙関連企業が数多くあります。


田中さんの回答からは、宇宙開発が遠い世界の話ではなく、さまざまな学問や仕事とつながる身近なフィールドであることが伝わってきました。エンジニアに加え、教育や事業開発など、幅広い分野の人たちによって支えられ、自分の得意なことや興味を生かしながら、かかわることができます。宇宙というフィールドには、それぞれ専門性や興味・関心を生かせる可能性があることを、中高生たちは感じ取ったのではないでしょうか。

講演の最後は、「宇宙は意外に近く、宇宙産業はこれから大きく成長していく。宇宙には、まだまだやることがたくさんある。中高生の皆さん、宇宙をめざせ!」と田中さんからの熱いメッセージで締めくくられました。

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