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未来のマナビフェス2018 実施報告vol.9ラップアップ
「2030年に向けて今日学んだこと」

登壇者:中原淳(立教大学)

未来のマナビフェスを締めくくる「ラップアップセッション」は、実行委員会副委員長の中原淳教授(立教大学)が登壇した。

なぜ今から2030年に向けて改革を始めなければならないのか

中原 淳(なかはら・じゅん)
中原 淳 先生(立教大学)

中原教授は、「2030年というと残り12年あり、まだまだ先のことだと思うかもしれません。でも教育に関しては1年は1秒、あっという間です」と語り始める。

なぜなら、教育改革には時間がかかるからである。その理由として、第一に教育は改革するからといって、今おこなっている教育を一旦止めることはできないということが挙げられる。日々の教育をおこないながら改革していく必要があるからである。

第二に、教育改革のためには教員の学び直しが必要になるからである。新しい方向に賛同する教員だけが残ればよいという考え方で進めていく国もあるが、日本ではそれは不可能で、全体で方向転換をめざす以外にない。だから、教員の学び直しが大規模に必要になる。

そして第三に、改革効果の実感には時間がかかるということが挙げられる。学校で改革された教育を学校で受けた子どもたちが社会に出て、受けた教育がどのように役立っているのか、あるいは役立っていないのかを見て効果を初めて検証できる。それには10年単位の時間が必要であり、教育改革は遅効性があるという特徴をもつからである。

「イナバウアー、ライブドア事件、web2.0・・・、これらの言葉が流行ったのはいつのことだと思いますか? 2006年、今から12年前のことです。それくらい12年という時間はあっと言う間に過ぎます。だからこそ、2030年を見据えて、今から走り始める必要があるんです」と中原教授は呼びかける。

キャリアトランジション=リアル社会に備える

違いを見据え、スモールステップで登っていく

未来のマナビフェスでは(1)キャリアトランジション、(2)アクティブラーニング、(3)カリキュラムマネジメント、の3つが焦点化されていた。この3つを中原教授は次のような言葉に置き換えてみせる。

  1. キャリアトランジション=リアル社会に備える
  2. アクティブラーニング=学び方を変える
  3. カリキュラムマネジメント=学校ぐるみで取り組む

そして、「(1)リアル社会に備える」ためには、伝統的教育機関の「賢さ」とリアル社会の「賢さ」には、次のような違いやズレがあり、そのことを正しく認識することが前提となることを示す。

まず「どんな課題」を解くかについては、教育の世界ではすでに決まっていて範囲も定まっている課題を解くのに対して、リアル社会では自分たちで課題を決めて早く解くことが求められる。それから「だれと解くか」については、教育の世界では一人で解くことが当たり前とされているが、リアル社会ではみんなで解くことが当たり前である。そして「解いている間」は、一人で解く場合は無言となり、みんなで解く場合はコミュニケーションが活発になる。そして「使う道具」は、教育の世界では鉛筆と消しゴムであり、リアル社会ではコンピューターをはじめ何でも使う。

つまり、チームみんなであらゆるツールを用いて課題解決するというリアル社会の在り方に、教育も変化していかなければならないのである。

しかし、教育の世界とリアル社会の在り方には大きな段差がある。この大きな段差を一気に埋めようとするのではなく、高校でも大学でもチームで課題解決に取り組み、スモールステップをたくさん踏んで登っていくことで目標に到達するように変えていくことが大切であると中原教授は指摘する。

アクティブラーニング=学び方を変える

これからは愉しく学び続けることが大切

「(2)学び方を変える」については、2016年度の中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策について(答申)」などをきっかけに、高校でもアクティブラーニングの導入が増えてきている現状がある。

中原淳研究室と日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)の共同研究「高等学校におけるアクティブラーニングの視点に立った参加型学習に関する実態調査」では、アクティブラーニングをおこなっている高校は2015年に56.6%だったものが、2017年には65.4%へと8.8ポイントも上昇している。このまま普及して、どこの学校でもアクティブラーニングを当たり前のこととして取り組むことになれば、やがて常態化して「アクティブラーニング」は死語になるだろうと中原教授は予見する。むしろ、もっと踏み込んで「Learning is fun!」の精神が大切になってくると指摘する。

古代から今までの社会では、人は一度「大人」になったらそれ以上学ばなくてもずっと「大人」で居続けることができたが、これからの変化の激しい社会では、変化についていくためにも学び続けなければ「大人」でい続けることすらできない。しかし、日本のビジネスパーソンは世界で最も学ばない人たちであるらしい。変化の激しい職種とされるシステムエンジニアですら、日本は世界で最も学習しないという調査結果が紹介される。
しかし、これでいいのだろうか。

「リンダ・グラットンによれば、2007年生まれの日本の子どもは107歳まで生き、80歳まで働く社会に生きるようになります」と中原教授。その場合に重要なポイントは、「強制されて学び続けるのか、それとも自分で選択して能動的に学び続けるのか」である。言うまでもなく自分で選択して学ぶからこそ愉しいのであり、続けられるのである。

そして、社会に出てから学び続けることができるかどうかは、実は労働時間に影響されるのではない。仕事が忙しくて時間がないから学べないのでもないし、時間があるから学べるのでもない。社会に出て学び続ける人は、高校や大学までの学びの習慣に影響されていることが明らかになっていると、中原教授は指摘する。

カリキュラムマネジメント=学校ぐるみで取り組む

先生が孤立しないように、仕組みで回していく

会場の様子

「(3)学校ぐるみで取り組む」について、である。教員が教育改革のために一人で孤立した「点」として頑張るというのは、SDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)の時代にふさわしいとは言えない。これからは改革を「面」で支えることが必要であり、それこそがカリキュラムマネジメントである。

20年前に総合的な学習の時間が導入されたとき、一人で頑張った先生たちが、ボランティアで全国行脚して頑張っても同僚からは同じ熱量を感じることができず、疲労感に襲われてしまった。そうした事態を繰り返してはならないとは中原教授は指摘する。

そのためには現状を可視化し、教育を改善し、仕組みで回していくことが重要となる。

しかもそれを学校レベル、教科レベル、個人レベルで回していくことが重要になる。「高等学校におけるアクティブラーニングの視点に立った参加型授業に関する実態調査」の結果でも、カリキュラムマネジメントができている高校は、できていない高校に比べてアクティブラーニングの導入率がおよそ2倍であったことが、その重要性を示している。

そして逆説的に「こんなカリキュラムマネジメントは嫌だ」として、3K(勘『K』 と経験『K』と気合い『K』)や、KSY(教頭『K』だけが死ぬ気『S』でやっている『Y』)、YKS(やったこと『YK』にしといて『S』)になっていませんか、と会場に問いかける。

最後に、「リアル社会に備えること」「学び方を変えること」「学校ぐるみで取り組むこと」の3つを結びつけながら、2030年をめざした教育改革を進めていきましょう、と呼びかけて、ラップアップセッションを締めくくった。


※本文中の所属・役職などは開催当時のもの

※このページは日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)によって制作されました。

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