未来のマナビフェス2019 実施報告vol.12新卒採用のフロンティア ~先進企業が描く「新卒採用の未来」~
登壇者:田中聡(立教大学/株式会社パーソル総合研究所)、木下達夫(株式会社メルカリ)
源田泰之(ソフトバンク株式会社)
2020年新卒者の採用から「採用選考に関する指針」が廃止されるなど、新卒採用は変わりつつある。本セッションでは、新卒採用の変化をとらえつつ、先進企業2社の新卒採用の事例から、求められる人材について考える機会が提供された。
新卒採用に関する5つのキーワード
田中 聡 氏(立教大学/株式会社パーソル総合研究所)
このセッションは、「新卒採用のトレンドや新卒採用で必要とされる人材を把握し、自校の教育に活かしたいと考える参加者の期待に応えられるような場にしたい」と、モデレーターを務める立教大学の田中聡氏による意図の共有から始まった。
はじめに、田中氏から5つのキーワードによって現在の新卒採用を紐解き、状況を明らかにするための話題提供がなされた。
- 【二極化】
リクルートワークス研究所によれば、2020年卒の大卒求人倍率は1.83倍と、数値上は超売り手市場である。この内容を精査すると、従業員規模5000人を超える企業の倍率は0.42倍、一方、従業員規模300人未満の企業の倍率は8.62倍と、学生の大企業に対する人気は根強いことがわかる。この状況を田中氏は、採用市場が「二極化」しており、大企業での就職活動がかなり厳しい状況であると指摘した。 - 【早期化】
次に、2018年(2020年卒者)から就活ルールが廃止され選考時期があいまいになっているという現状の共有がなされた。ある大学生を対象とした最新の調査では、大学2年生の4月時点で約4分の1が「就職活動の経験がある」と回答しているというデータを用い、選考時期が明確でないために学生が就職活動を早く始める傾向「早期化」について指摘がなされた。 - 【多様化】
これまで企業は、ナビサイトに登録した学生を対象として採用活動を行っていた。しかし、近年ではアルバイトからの採用、新卒紹介サービスを通じた採用というようにいくつものルートが存在しているという。これが採用の「多様化」である。 - 【最適化】
人事領域でのテクノロジー活用「HR Tech」が発展しているように、AIは人材活用に大きな影響を及ぼすと言われている。田中氏は、大企業の3割がAIを活用したエントリーシートの選考に興味を示しているというHR総研の「新卒採用動向調査」を示しながら、新卒採用の業務負担を減らす意味でも、専攻プロセスの「最適化」への関心が高まっていることを指摘した。 - 【個別化】
昨年あたりからサイバーエージェント、ヤフーなどのIT系の技術者にとどまらず、くら寿司などのサービス業においても新卒者の待遇に差をつけていることがメディアを賑わせている。これらの記事からもわかるように、いくつかの企業では新卒者のなかでも採用条件に差をつける「個別化」が起きていることが報告された。
このように、新卒採用に関して「二極化」「早期化」「多様化」「最適化」「個別化」という5つのキーワードが提示された。続いて提示された経団連「新卒採用に関するアンケート調査」結果からは、採用担当者が学生に求める要素は「コミュニケーション能力」「社風への適応」などと従来と大きく変わっていないようにも感じられる。田中氏はこの状況について、「採用の枠組みは確実に変化しているのに、採用する企業側が学生に求める要素は、本質的に変わっていないのではないだろうか」と問いかけ、ゲストスピーカーである株式会社メルカリ木下達夫氏にマイクをつないだ。
採用の最先端1 -株式会社メルカリの新卒採用-
木下達夫 氏(株式会社メルカリ)
メルカリは、創業7年目で社員の平均年齢は約30歳と、創業年数も従業員構成も若い会社である。成長に伴って従業員数は1800人にのぼり、社歴1年未満の人が半数、その出身国は約40カ国にわたっているという。
木下氏はメルカリのカルチャー「Trust & Openness」について説明した後、メルカリの3つのバリューについて語った。3つのバリュー「Go Bold(大胆にやろう)」、「All for One(すべては成功のために)」、「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」は、メルカリの採用基準にもなっているという。メルカリで新卒採用を始めたのは2016年からだという。開始当時から国内と海外(インド、台湾、USなど6か所)において採用活動が行われており、採用基準は国内外を問わず、さらに新卒・中途(経験者)を問わず一定であるという。配属先を決めたポジション採用を行っているという話からも、専門性の高い人材を求めていることがわかる。
そういった採用方針を据える中で、インターンシップの重要性が高まっているようだ。メルカリでは、社員と同じようにシステム開発などの仕事を経験できるよう、週3~5日で1.5か月以上の長期インターンを随時募集しており、インターンとして働く者は絶えない。インターン期間で、個人の持つ能力が見極められることから、木下氏は「インターン経験者の採用比率をほぼ100%にしたいくらい」という。
このような方針で採用活動を行っていくと、社員以上の専門性を持つ新卒者も現れる。そういった新卒者に応える人事制度がメルカリには存在している。メルカリでは、新卒者であってもすぐに「プロフェッショナルとして、高い目線をもって、おもいっきり働ける環境」を提供するため、個人のスキルやバリューに応じた年収を提示できる制度になっている。内定期間中にアルバイトとして就業する際も、入社後の年収から概算した時給を支払う。さらには、インターン期間中でも能力向上に応じて昇給させることもあり、語学などの習得のための支援も行っているという。
新卒採用の最先端2 -ソフトバンク株式会社-
源田泰之 氏(ソフトバンク株式会社)
ソフトバンク株式会社の源田泰之氏は、同社について「もともとはソフトウェアの卸売り業から始まり、さまざまな企業を買収しながら成長してきた。事業ドメインがどんどん変わってきた会社」だと説明する。また、「事業がどんどん変化する企業であるからこそ、変化を楽しみ、何事もチャンスととらえ挑戦できる人材」を求めているという。
源田氏は、日本の新卒一括採用の仕組みが、学生にとってはどうなのかと問いかけた。ソフトバンクでは、学生目線を大切にする「学生ファースト」を掲げて採用活動を行っているという。ソフトバンクの考える「学生ファースト」とは何か。
ソフトバンクでは「優秀な人材には常に門戸を開き、時期や年齢に限定されず採用したい人材を採用する」ために、ユニバーサル(通年)採用を5年前から実施している。希望者を対象に、既卒であっても入社時30歳未満であれば新卒として採用し、4月以外でも入社可能である。一括採用の枠組みを外すことで、留学などによって活動時期を逃してしまった優秀な学生を採用できるようになったという。
また、従来型の就活媒体経由の採用活動に加え、学術、スポーツを問わずNo.1をとった学生が応募可能なNo.1採用、学生の不便を解消したいと全国各地で、説明会から複数回の面接を1日で行う1day選考会なども実施しており、学生自身が最適な選考を選択できるというところでも「学生ファースト」であると言えるだろう。
さらにソフトバンクはインターンシップも充実している。採用直結型の就労体験型インターンシップに参加した学生の満足度は99%であるという。インターンシップに参加した学生は、名刺、PC、社員証が支給され、週に5日間、最低2週間社員と同じように働くことが求められる。社員と同じように働くことによって、インターンシップに参加した学生にソフトバンクで働くということをリアルに体験してもらい、またキャリアについて真剣に考えてもらいたいという想いからであるという。このようにソフトバンクはインターンシップに関しても「学生ファースト」の姿勢を徹底している。
新卒採用はこれからどうなる?
2社の新卒採用に関する報告がなされた後、田中氏、木下氏、源田氏によって新卒採用に関するディスカッションが行われ、大学での学びのあり方について以下のようなやりとりがなされた。
現在、大学での学びと入社後のキャリアが断絶しがちであるが、しっかりと学業に向かうという姿勢は必要である。また、新卒採用であっても、グローバルで評価される時代が近づく中で、海外の企業からオファーをもらえるような自分を学生時代に作っていくことが必要になってくるであろう。
2社の報告を聞き、「採用担当者が学生に求める要素」も着実に変わっているという印象を受けた。メルカリやソフトバンクでは、コミュニケーション能力は、採用基準のほんの一部にすぎない。それを踏まえて、学校・大学でどのような生徒・学生を育てていく必要があるかを改めて考える時期に来ていることを痛感した。
※本文中の所属・役職などは開催当時のもの
※このページは日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)によって制作されました。