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2019年度 第3回 対話のひろば 実施レポート主体性を育む教育について語り合おう

2020年1月13日 実施

新学習指導要領で示された「主体的・対話的で深い学び」や、「学力の3要素」における「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」が教育関係者の間ではよく知られるところとなったが、教育現場では「主体性」という概念をめぐって、さまざまな議論が沸き起こっているように感じる。主体性とは何か、いかに育成するのか、学校や授業をどう変えればいいのか…。

今回は、長年、主体性を育む中等教育に携わり、『女の子の「自己肯定感」を高める育て方』を著わした鷗友学園女子中学高等学校名誉校長の吉野明氏をお招きし、発達段階に合わせて主体性を育てる教育についてお話しいただくことにした。「主体性」という概念の曖昧さ、幅広さからきっとハードルの高い話題提供であったに違いないが、教員歴45年という吉野先生の豊富な教育実践と専門家の理論的背景を交えた深い話題を提供していただけたように思う。そんな当日の様子を簡単にレポートしたい。

プログラム  ※所属・役職は開催当時のもの

  • レクチャー 「主体性とは何か」鷗友学園女子中学高等学校名誉校長 吉野明先生
  • 質疑応答
  • グループで対話したいテーマの決定(問い出し・問い決め)
  • グループ対話例
    1. 主体性を育む教育とは?~学校・家庭・地域・企業でできることは~
    2. 主体的な人材を活かすために、社会はどのように変わっていく必要があるのか?
    3. 結果・成果と「主体性」の関係は?
  • ふり返り

レクチャー 「主体性とは何か」鷗友学園女子中学高等学校名誉校長 吉野明先生

鷗友学園女子中学高等学校名誉校長 吉野明先生

レクチャーでは、主体性にかかわる概論として、文部科学省や中央教育審議会、さらに日本生涯学習総合研究所などが示した資料を用いながら、「主体性」のキーワードについて概念整理をしていただいた。その中で、実際に鷗友学園女子中学高等学校で長年取り組んできた事柄について、理論的背景やデータも交えて語られた。

吉野先生のゆったりとした熱い語りは、多くの実践者たちの心を惹きつけている。

グループで対話したいテーマの決定(問い出し・問い決め)

こういったレクチャーを踏まえて、どんなことを話し合いたいかをグループ内で出し合う「問い出し・問い決め」を行った。この「問い出し・問い決め」は、哲学対話の手法を援用したもので、対話のひろばでは初の試みである。ファシリテーターからは、この後グループ内で50分間、話し続けられるような問いを決めましょう、ということだけ促され、さまざまな問いが挙がっていた。そのあとの50分間の対話の時間があっという間にすぎていくほど、5つのグループそれぞれの対話は盛り上がっていた。グループで対話されていた内容を、3つ紹介しよう。

グループ対話例

対話例 1. 主体性を育む教育とは?~学校・家庭・地域・企業でできることは~

このグループでは、まず主体性とは何かについて話した。その中で、主体性は、自分勝手とは違うこと、それから、目の前にあるものを自分事として取り組めることだったりするのではないかという話になった。

次に、主体性を育む環境と阻む環境へと話題は移り、主体性を育むのは、安心・安全の場であり、自分の存在を認めてもらえる場であるということに行き着いた。

また、自分以外の価値観を知ることが大切だということや、対話と会話の違いについて話し、違う考えを持った人と話す経験を数多くできることがいい環境だという話になった。そこで成功体験があるかどうかで次の一歩も変わるので、対話によっていい経験ができる環境が大切である。

それから、それぞれの立場でできることとは何かということも話し合った。

まず、安心・安全の場を提供すること。家庭では、自分勝手と主体性の違いをわかった上で、最低限の躾をすること。 地域もおせっかいとして関わること。企業も、自分たちの組織内で人間を教育していくことが大切だということを話した。

そして、主体性も時間軸で変わってくるのではという話に至った。幼少期にはダメなことはダメとしっかりと伝えること、年齢が上がるにつれて理由を説明し納得させることが必要であること、さらに年齢が上がればしっかり対話をすることが大切なのではという話をした。

対話例 2. 主体的な人材を活かすために、社会はどのように変わっていく必要があるのか?

別のグループでは、いろいろな観点の議論があったが、キーワードは2つにまとめられていた。

一つめは多様性。主体的な人を生かす社会は、それを受け入れられる多様な社会だということ。

このグループは、企業・中高・大学と幅広いメンバー構成であったが、どの立場でも皆主体的な人を活かすことに取り組んでいるということがわかった。例えば、環境問題に対して若者たちが主体的に取り組み、100名くらいのデモが半年で3000名に膨らんで社会が変わろうとしている話。それから、中学でもレゴブロックで主体的に考える力を測るような入試に変わっているという話。

それらを踏まえて、二つめのキーワードは仲間づくり。ちょっとうまくいかないからといってやめるのではなく、 自分のビジョンを発信しつづけ、仲間をつくってやり続けていくことが大切だという話がなされた。

このような多様性のある社会を仲間とともにつくるためには、まず自分たちが主体的に学び続け、行動し続ける姿勢を見せることが重要である。後輩や生徒がやりたいと言った時にやってみようよという状態ができて、いい循環が生まれるという話をした。

対話例 3. 結果・成果と「主体性」の関係は?

また、もう一つのグループは、結果・成果と主体性の関係をテーマに話していた。対話のとっかかりは、部活動で育まれる主体性についてであった。部活動では、試合に勝つ、いい試合をするなどの目的が与えられているが、そこで主体性は本当に育まれているのか、指導者の自己実現の場になっているのではないかという疑問が提示された。そこから、インセンティブ(外的誘因)が主体性にどう働きかけるのかという話題へと移った。企業では、評価・給与がインセンティブとなって従業員の主体性が発揮されることがあるが、学校の場合は事情が異なるだろうという話がなされた。さらに、教え込むことで発揮される主体性もあるのではないか、部活動では真似することから生まれる主体性もあるのではないかという話になった。では、真似しようという気持ちを促すにはどのような指導をすればよいのだろうか。

そこから、そもそも学校教育において主体性は、どこで育まれているのか、なにで育まれるのか、そもそも育まれているのか、それをどう評価することができるのかという問題へと話が進んだ。目指す結果・成果がはっきりしている部活動では、その目標に向けて疑問を投げかけながら主体性を育むことができるかもしれないが、授業を通してどう育めばよいのか、主体性を育む難しさを確認して話を終えた。

イベントを終えて

印象的だったのは、話題提供の事例が中等教育であったものの、主体性を軸に、様々な発達段階からとらえ、検討されていたことである。これまでの対話のひろばでも、高校・大学・社会の枠を越えて議論がなされてきたが、幼児教育や家庭での教育も含めて話題が及んだのは珍しい。「主体性」は、定義そのものもさることながら、その発達段階を意識しながら時に見守り、育んでいくことが重要であると感じた。また、吉野先生からは、「主体性」そのものよりも、「主体的な学び」のような、「主体的な〇〇」と絞って検討する方がよいのではないか、との言葉もあった。

「主体性」という、重要であるが、とても曖昧で、広く、深い概念についての議論はまだまだ尽きそうにない。

対話のひろば2019 第3回


※このページは日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)によって制作されました。

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