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未来のマナビフェス2019 実施報告vol.4主体的・対話的で深い学びの成果と学校改革

登壇者:真下峯子(大妻嵐山中学校・高等学校)、千々布敏弥(国立教育政策研究所)

新学習指導要領において、「資質・能力」を育むものとして「主体的・対話的で深い学び」(アクティブラーニング)の視点からの授業改善が重要視されている。大妻嵐山では、主体的・対話的で深い学びによる学校改革を目標に掲げ、下記の図のように「校長のリーダーシップ」、「組織文化」、「授業力」、「授業研究」の4つの視点から改革を進めてきた。本セッションではこのうち「授業研究」を取り上げ、英語の実践事例を題材にしながら、発表者と参加者が相互に意見を交わし合い、学びを深めた。

授業力向上をめざした6年の歩み

主体的・対話的で深い学びによる大妻嵐山学校改革
主体的・対話的で深い学びによる大妻嵐山学校改革

最初に、登壇者の一人千々布敏弥先生から、本セッションの趣旨について説明がなされた。本セッションでは、大妻嵐山中学校・高等学校の学校改革に向けた取り組みを紹介しつつ、これからの学校改革・授業改革のヒントを参加者とともに考えることをねらいとしている。大妻嵐山中学校・高等学校では、校長に着任して7年目となる真下峯子先生のリーダーシップのもと、授業力の向上を目指す学校改革が進められてきた。千々布先生によれば、改革は着実に進められており、特に、授業力向上に向けた組織文化の改善については一定の成果が蓄積されてきているという。一方で授業研究に関してはいまだ発展途上にあるといわざるをえないが、しかし同時に、大きな発展可能性を秘めているという。本セッションでは、大妻嵐山での取り組みのうち、とりわけ授業研究に関わる部分を取り上げることが明示された。

真下峯子(ましも・みねこ)
真下峯子 先生(大妻嵐山中学校・高等学校)

続いて、千々布先生の紹介を受けて登壇した真下先生は、「大妻嵐山の生徒の多くはコツコツと真面目に学習に取り組んでいるが、一方で主体的な学びが身についているとは言いがたいと感じている。大妻嵐山での取り組みでは、生徒たちの主体的な学び、リテラシーやコンピテンシーの向上にどのように結びつけていけるかが問われている」と語った。授業は生徒の学びを深め育むことに直結する場であり、そうした意味で、授業改善への取り組みは真下先生が語る課題に直結する。そこで、同校では現在、授業改善に特に重点を置いて、学校改革を進めているという。

授業改善をゆるやかに進めていくために-「視点」としてのアクティブラーニング-

千々布敏弥(ちちぶ・としや)
千々布敏弥 先生(国立教育政策研究所)

千々布先生によれば、6年間継続してきた改革、とりわけ授業改善への取り組みでは、アクティブラーニングを軸にしてきた。というのも、基礎学力と新しい時代に求められる学力の育成は「主体的・対話的で深い学び」(アクティブラーニング)を通じてこそ実現されるものと考えてきたからだ。こうした文脈のなかで、同校では、アクティブラーニングを学ぶことを軸とした校内研修も数多く重ねてきている。

ところで、学習指導要領解説総則編では、「主体的・対話的で深い学び」は授業改善を進める際の3つの「視点」として示されている。だが、教育現場では、それらはしばしば満たすべき条件、あるいは「定義」として受け取られているのではないか、と千々布先生は言う。また、アクティブラーニングに対するよくある誤解として、すべての授業でアクティブラーニングの手法を取り入れなければならない、というものもある(学習指導要領解説総則編では、授業の目的に応じて、学習活動の種類や配分を変えてよいと明示されているにもかかわらず、である)。千々布先生は、こうした誤解によって、アクティブラーニングに取り組むことへの心理的障壁が高まってしまっているのではないかと指摘する。

カリスマ教師による名人芸的な授業実践を目指すのではなく、「普通」の教員が無理をせず授業改善を進めていくことは、いかに可能なのだろうか。大妻嵐山では、「働き方改革」の必要性にも鑑みつつ、教員に過度な負担を強いるのではなく、教科(基礎学力)の価値と個々の教師の指導力を重視するこれまでのやり方を「ゆるやか」に変えていくことを目指してきた。ここでもまた、アクティブラーニングが鍵となっている。

千々布先生は、「伝統的授業」で授業の目的が達成されない例には、大きく分けて以下の2つがあるという。1つは、思考力・判断力・表現力の育成を目的とする授業で、知識伝達になっている場合である。(教師と生徒との間でやりとりを行ったり、生徒どうしのグループディスカッションなどの手法を採って、一見アクティブラーニングのような形式を整えていたとしても、教師が想定する回答に導くことが目指されているなら結果は同様である。)例えば、「登場人物の相互関係や心情、場面についての描写をとらえる」ことを目的とする国語の授業で、それらの内容を教師が知識として伝えてしまうというような場合がそれにあたるだろう。

2つ目は、1つ目とは正反対に、知識・技能の習得を目的とする授業で思考させることに時間をかけすぎている場合である。理科の実験を行った際、生徒どうしが各自の多様な実験結果を共有するだけで、肝心な実験から得られるべき理科的理解に到達することなく授業が終わってしまうというような場合である。

千々布先生は、こうした「伝統的授業」が陥りがちな誤りを回避し、それを改善していこうとする際、アクティブラーニングの考え方(特に、対話的な活動)が有効であるという。1つ目の例では、教師の一方的講義形式になりがちな授業に生徒どうしの対話を入れることで、互いに相談したり教え合いながらも、自力で解こうとする態度が育成されうるし、2つ目の例では、思考の練り上げ過程をワークシートに用いたグループディスカッションに代替することで、知識・技能の習得のための時間を確保するとともに過度の指導案検討も不要になる。このように、大妻嵐山中学校・高等学校では、「伝統的授業」でその目的が達成されていない場合の対処として、部分的にアクティブラーニング的対話を導入することで、ゆるやかに、しかし着実なかたちで授業改善を進めてきた。

アクティブラーニング的対話の導入による伝統的授業の改善

本セッションの後半では、大妻嵐山中学校・高等学校英語科の工藤貴子先生(着任3年目)から実践報告がなされ、その報告をもとに、会場全体で工藤先生の授業をよりよいものにしていくための方法を討議した。

工藤先生は、高校3年生の英語(標準コース)を担当しており、アクティブラーニングを意識した授業づくりを行っているという。報告された実践は、ところどころでペアワークやグループワークを取り入れながら、導入(単語確認)、教科書の内容に関する真偽(T・F)課題、発展課題、文法解説という4段階で学習活動を展開したものであった。

工藤先生による報告のあと、参加者はグループになって、この授業をより活性化するために、4段階のどこにどのような方法上の工夫を加えることができるか、あるいは、まったく別の授業の構成を考えることができるか、について話しあった。それぞれのグループで出された意見はクラウド上に集約され、会場全体に共有される仕組みとなっていた。スクリーンには、50を超える意見が映し出され、そのうちのいくつかについては工藤先生から応答がなされた。

会場の様子

以上のように、本セッションは、大妻嵐山中学校・高等学校での学校改革の取り組みから参加者が多くの気づきを得ると同時に、参加者と登壇者が意見を交わしあうことによって、参加者が同校の授業改善を後押しする場にもなっていた。とりわけ、情報技術を活用しつつ、双方向的な学びを実現するという本セッション後半の試みは、未来における学びの姿を体現したものだったといえるだろう。


※本文中の所属・役職などは開催当時のもの

※このページは日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)によって制作されました。

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