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未来のマナビフェス2019 実施報告vol.7みんなが楽しく元気になる Happy Management 〜夢を思い描き、未来を切り開く子供たちを育てるために〜

登壇者:下町壽男(盛岡中央高等学校附属中学校)、松嶋渉(山口県教育庁)
齋藤みずほ(キャリア・クエスト)

職員会議、カリキュラム・マネジメントにPDCAサイクル。組織が幸せになるためのもののはずなのに、やらされ感が残りみんなが疲弊してしまっている、なんてことはないだろうか。本セッションでは始終楽しい雰囲気の中、学校経営のみならず、生活全体が明るくなるようなヒントが導き出される時間となった。

Unhappy Managementから Happy Managementへ 幸せになるためのマネジメント

下町壽男(しもまち・ひさお)
下町壽男 先生(盛岡中央高等学校附属中学校)

冒頭で「あなたの組織マネジメント診断」と「幸福度の推奨アンケート」を実施し、その結果を示し合いながら、グループで自己紹介してもらうところから本セッションはスタートした。

登壇者の3名からの楽しい自己紹介を経て、下町壽男氏が次のように話し始めた。

「皆さんの職場では、声の大きい人の意見や、管理職のツルの一声で物事が決定することがありませんか。職員会議がただの連絡会になっていませんか。あるいは目に見えないもの、数量化しにくいもの、効果がすぐ現れないものが軽視されてしまってはいませんか。これはアンハッピーなマネジメントですね。」

しかし、下町氏は、このアンハッピーな状況は、経営陣だけの責任ではなく、組織を構成する職員自身がその枠組みに加担しているかもしれないこと、また、管理職と職員との関係は、教室における教師と生徒の関係と相似的ではないかということを指摘したうえで、マネジメントについて次のようにまとめた。

  1. マネジメントの真髄は、成果を標榜するPDCAを越えて価値追求・価値創造を行い、子どもと組織と職員の成長と幸福を促進させていく営みである。
  2. 成果第一主義、効率性重視のマネジメントには組織の活性化を阻む要素が潜んでいる。
  3. マネジメントは人や仲間や組織が幸せで健康に生きることを支援する。
  4. マネジメントとは学校経営や企業経営に限ったことではなく、子育て、勉強方法、老後の人生設計など、個人がどう幸福に生きるかということもマネジメントである。
  5. PDCAを回す際に必要なのはHappyテイストである。

これらを踏まえて、下町氏は、組織のマネジメントとセルフマネジメントは不可分一体であり、セルフマネジメント(個人の幸せ追求)の充実は組織マネジメントの充実(目標達成・生産性向上)と関わり合うことを述べる。つまり組織の成長、生産性の向上のためには、個人(社員・職員)が幸せであることが必要であり、だからこそ、社員の幸せにフォーカスしたハッピーマネジメントの構築の必要性を提起する。

では、「幸せ」を基準としたマネジメントとは何か。給料が増えて労働時間が減少することが幸せなのか。また、「幸せ」をどう指標化しエビデンスベースにするのか。そもそも「幸せ」とはどのようなものなのだろう?

下町氏はこのような問いを立て、後のスピーカーの松嶋氏と齋藤氏にバトンを渡す。

個人の幸せが地域の幸せに -学校から始まった地域をHappyにする取り組み-

松嶋 渉(まつしま・あゆむ)
松嶋 渉 氏(山口県教育庁)

マイクは松嶋渉氏の手に渡り、山口県立萩商工高校情報デザイン科での実践が紹介された。問題を話し合い、最終的にはプレゼンで解決策を発表する授業。地域の方々を巻き込んで、PCやタブレットなどの情報機器、クラウドやSNSなどの情報共有ツールも活用して行われた。

この取り組みは、「生徒が多様な大人と出会うことによって情熱を見つけられるような授業がしたい」という思いで始まった。生徒たちはその思いを受け取るかのように、夢中になって授業を受けた。それと同時に、松嶋氏自身がやっていて楽しいと感じられる授業でもあった。授業に関わった地域の大人たちにとっても、子どもたちと関わる中で自分の幸せについて考える機会になったという。

次に防府市での事例も紹介された。山口県立防府商工高校に、テレビ番組で防府市の方言「幸せます」のことを知った生徒がいた。生徒たちは、この方言に「幸せが増す」という意味を付け加えられないだろうかと考えた。このことは、その後、地域と市役所、学校、生徒が一緒になって「幸せます」を防府の地域ブランドとして売り出すことにつながった。

それぞれの個人的な幸せが形になって、最終的には市民が自分たちの地域を誇れるような取り組みに行き着いた。「今では地域で『幸せます』を知らない人はいません」と、松嶋氏は嬉しそうに語る。

これからのキーワードwell-being -幸せの感染力は強力かつ迅速-

齋藤みずほ(さいとう・みずほ)
齋藤みずほ 氏(キャリア・クエスト)

松嶋氏からのマイクを受け取り、齋藤みずほ氏は会場に問いかける。「皆さんは幸せですか」。

OECDのめざす教育の中にwell-beingがある。齋藤氏は、well-beingは教育業界を超えて、幸福学の領域を始めとする社会全体で注目されているキーワードでもあると説明する。ハーバード大学で行われた研究によれば、幸せは3代に渡って伝染する。教室の先生が幸せならば生徒たちはもちろんのこと、生徒たちが直接関わる家族まで幸せになることができる。「だからこそ、まずは会場内にいる皆様に幸せを感じていただきたいのです」。聞いているだけで幸福度が増すような声で呼びかける齋藤氏に、会場には笑顔が溢れる。

齋藤氏が着目するキーワード、well-beingは、新しい言葉ではない。しかし、ここ20年の間では「人はいかに幸福を感じるか」という研究の中でも大きく注目されている。齋藤氏は会場にこう呼びかける。「その時、その場で出会った人と、幸せに関する知見をもとに対話する “well-being café”(齋藤氏が定義)を通して、皆さんの幸せ基準を体感していただきたいと思います。幸福学を研究する慶應義塾大学大学院の前野隆司教授が行った調査では、人の幸福は『幸せの4因子』によって決まるということがわかりました。まずは皆様の中にある幸せの4因子『やってみよう』『なんとかなる』『ありがとう』『ありのままに』を具体化する作業から行ってまいりましょう」。

齋藤氏のファシリテーションを受けて、会場にはワークシートを用い、それぞれが幸せの4因子について思いを巡らせる時間が与えられた。

続いて、個人で考えたことをグループで共有する時間が設けられた。齋藤氏からは、さすがですね、幸せそうですね、すごいですね、センスありますね、尊敬します、という「さしすせそのリアクション」をするようにとのアドバイスが与えられた。

グループワーク中の会場は笑い声や愉快な相槌に溢れていた。あるグループの代表者は話した内容を全体にこう共有した。「グループの中には完璧主義だという方がいました。完璧をめざすその姿はとても素敵です。また教員1年目でこのイベントに参加したという方もいました。その意識の高さは素晴らしいと思いました。私は大学院に所属していて、普段から学びの環境があり、その中でこのイベントの情報も手に入れることができました。こういった環境にいられることを幸せに思うし、イベントに参加して新しい知識を得られたことも幸せに思います」

各グループの代表が話し合いの報告をすることによって、幸せの伝染が目に見えるように感じられた。

「“well-being café”は職場の中でも、朝礼や会議の中でも実践できます」と、齋藤氏。「Happiness boostというものがあります。自分が幸せになることを『見える化』する。笑う、ワインを飲む、ボ〜っとするなど、短時間で自分一人でできることと、ハグをする、ショッピングに行く、など仲間とできることを別々に言語化します」。自分が幸せになる方法を『見える化』することによって、自ら幸せを掴みに行くことも可能になる。

セッション全体の振り返りを隣の人と行う時間が設けられ、会場が再び活気にあふれているところでセッションは終わりの時間を迎えた。最後は登壇者3名の呼びかけにより会場全体で「幸せます」と挨拶をし、幸せな一体感とともに、セッションは幕を閉じた。


※本文中の所属・役職などは開催当時のもの

※このページは日本教育研究イノベーションセンター(JCERI)によって制作されました。

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