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2021年度JCERIレポート「政策主導」の高大接続改革から教育改革を起点とした「大学主導」の入試改革へ

西郡大(にしごおり・だい)先生顔写真

西郡 大
(佐賀大学 アドミッションセンター)

教育改革は大学主導で(1/4)

「めざしたい大学」として生き残るための教育改革

 2010年代は、高大接続に関する改革案が矢継ぎ早に示され、「政策主導」の改革が進められてきました。それに対して2020年代は、「大学主導」で、教育改革を起点とした入試改革が展開されることになるでしょう。

 というのも、18歳人口の急激な減少に伴って、大学入学自体は容易になっていきますが、「人気のある大学」「めざしたい大学」と、それ以外の大学との差が、これまで以上に拡大することは確実だからです。「めざしたい大学」として生き残るには、教育改革が不可欠になるのです。そのため国立大学では、2022年4月からの第4期中期目標・計画期間で、大綱に沿った多様な改革が推進されます。大学個別の教育カリキュラム改革も活発化しています。文部科学省の「知識集約型社会を支える人材育成事業」に採択された千葉大学、早稲田大学などの「インテンシブ教育プログラム」や、東京工業大学の大学院課程との一貫カリキュラムなど、新たな教育システムを導入する大学も増えています。そうした先進的な取り組みを行っている大学には、高校や高校生の注目が集まっているようです。

教育・入試両面での大学間連携

 教育改革は、単独の大学だけでなく、大学間連携で進められるケースも増えるでしょう。すでに群馬大学と宇都宮大学が共同教育学部を設置したように、教育学部の連携が先行する可能性が高いと考えています。実技系教科を含めて、すべての教科の教員免許を取得できるように教員を揃えるのは、大変な人件費が必要になるからです。近隣の大学で連携して、相互補完できるメリットは大きいわけです。こうした一部の学部での連携をきっかけとして、名古屋大学と岐阜大学のように、法人統合にまで進展する可能性もあります。ただし、大学の名前を残したいという思いも働くので、よほど方向性が合致しないと、法人統合はハードルが高いかもしれません。

 大学間連携は、教育だけでなく、入試にも波及することが考えられます。DXの進行によって、連携する大学同士で、共通のプラットフォームを構築し、J-Bridge System(注)のような仕組みで審査する方法が想定されます。イギリスのUCAS(大学への総合出願機関。複数の大学・コースに出願できる)に近いイメージです。

 新型コロナ禍をきっかけに、オンラインでの遠隔授業が活発化していますし、単位互換制度の緩和なども進めば、今後、大学間連携はさまざまな形で進行するでしょう。ただし、現在はオンラインでの履修単位数の基準があり、一定単位以上、対面授業で履修しないと、卒業認定されません。この点については、緩和の方向で議論されていますから、実際に緩和されれば、かなり柔軟な時間割が組めるようになることが期待されます。

「学び方」が変われば「選び方」も変わる

 いずれにしても、生き残りをかけた教育改革が先にあって、それをもとに大学入試も変わっていくのは、間違いのないところです。その意味では、「学び方」の変化の中身をしっかり吟味して、大学の「選び方」も変えていく姿勢が求められるでしょう。

教育的な高大接続の必要性(2/4)

学生の学力水準のバラツキが課題になる

 ところで、「人気のある大学」が高い競争率をキープした状態で、入試制度を検討できるのに対して、入試の選抜性が低くなった大学は、その実態に即した入試形態を考えざるを得なくなります。すでに私立大学で拡大している「年内入試」(総合型、学校推薦型)は、人口減少が進む地方の国公立大学でも拡大するでしょう。多くの大学が青田買いの入試戦略に移行し、早期に合格者を決定するようになれば、学力担保の観点から、入学前教育がきわめて重要になります。実際、第4期中期目標・計画期間に、入学前教育をどのように位置づけていくのかという課題に取り組もうとしている国立大学は少なくありません。当然のことながら、競争率が低下すると、入学してくる学生の学力水準のバラツキが大きくなります。実は、入学者の学力水準が下がることよりも、バラツキが大きくなるほうが、大きな問題なのです。幅広い学力水準の学生を、入学後どう教育すれば良いのか、従来のやり方には限界があります。単に入試だけで高大接続を図るのではなく、予備教育のようなものの導入など、教育的な高大接続を真剣に検討しなければならない時代に入ると、私は考えています。

 入学後も、学力水準のバラツキを補正するために、リメディアル教育が必要になる可能性が大です。単独の大学でその実施が困難な場合には、複数の大学で連携してオンラインで補習を行う方法や、放送大学と連携するなど、さまざまな形を工夫する必要があります。

 また、そもそも現在提示されているアドミッション・ポリシーが妥当なのかという議論にもつながります。近年、その重要性が指摘されている教学マネジメントの中で、どの科目がボトルネックになって進級・卒業できないのか、検討を行い、ボトルネックになっている科目を習得できるようにするためのレディネス(前提となる知識・経験)を、アドミッション・ポリシーできちんと設定し、それに基づいた能力を問う入試へと改革することが求められます。

 さらに、中等教育の質保証も重要なテーマになります。先ほども申し上げたように、教育的な高大接続を、形式的なものから本質的なものへ変えていく段階に来ているのです。私は、中等教育の質保証は、必ずしもテストである必要はなく、たとえばヨーロッパで取り入れられている中等教育の質保証のあり方などを参考に、もう少ししっかりと議論する必要があると感じています。

新学習指導要領で学んだ学生への対応

 もうひとつ、今後の大学にとって、大きな課題になるのが、新学習指導要領で学んだ学生が入学してくることです。まずはきちんと追跡調査を行って、学生の学修行動や履修履歴の変化を把握することが大切です。そして、その結果に応じたカリキュラムの見直しや、入試の改善が求められるでしょう。その際に、配慮しなければならないのが、これから数年で、多くの大学において、新しい時代のリテラシーとしてのデータサイエンス教育が拡充されることです。文部科学省でも、「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(リテラシーレベル)」を始動させています。この制度にも対応して、情報や数学を大学入試でどのように課すのか、文系学部でも真剣に議論しなければならないでしょう。

 高大接続の観点から、探究学習の位置づけも重要になります。すでに探究型入試も登場していますが、まだ中等教育における探究学習のあり方が十分に議論されたとは言えない状況での導入です。学校段階に応じた探究学習をどのように位置づけて、大学でどう成長させていくのかが、新たな課題になります。一方で、中学校や高校の探究学習を、大学教員が積極的に支援することによって、その教員が在籍する大学に行きたいという意欲を喚起して、志願者層の形成につなげる動きも出てくるでしょう。

入試での多様性の確保とオンライン入試(3/4)

より多様な学生を確保する動きが加速

 さらに、18歳人口の減少に伴って、より多様な学生を確保しようとする大学も増えるはずです。以前からのターゲットだった社会人、外国人留学生のほかに、私が注目しているのは、ダイバーシティの観点からの理系女子枠です。 工学部女子枠については、名古屋大学や名古屋工業大学の動きなどがありますが、今後はもっと前向きに導入を検討する大学が出てくると思われます。

 また、研究大学では、国際戦略、海外戦略が不可欠です。世界最高水準の教育・研究をめざす「指定国立大学法人」や、文部科学省が新たに掲げた「国際卓越研究大学(仮称)」などの採択にも影響するはずです。

オンラインを使った入試は増える!?

 入試のDXとして、オンラインを使った入試も増えていくでしょう。外国人留学生や、遠隔地の受験生にとっては有効な仕組みになります。まずは面接、口頭試問などでの導入が進むと考えています。一方で、CBTで学力をチェックする方法の導入は、公平性を重視する大学としてはきわめて難しい面があります。ただし、新型コロナ禍をきっかけに、ややハードルが下がっている印象もあり、今後の動向に私自身、高い関心を持っています。

まとめ

 以上見てきたように、これからの10年間、18歳人口が減少する中で、大学は生き残りをかけて、さまざまな教育改革を実施することは確実です。けっして入試改革が先にありきではなく、この教育改革を起点として、そのために必要な入試改革が行われることになるでしょう。教育改革の行く末次第の面があるので、入試がどのように変わるのか、予測は困難ですし、おそらく急激な変化ではなく、じわじわとした入試改革が展開されると思います。しかしながら、2032年を迎えて、改めて振り返ったとき、意外と大きな変化が見られた10年間であったと、私たちは気づくことになるかもしれません。




西郡大(にしごおり・だい)
 佐賀大学 教授・アドミッションセンター長。東北大学大学院教育情報学教育部博士課程修了。博士(教育情報学)。佐賀大学アドミッションセンター准教授等を経て、現職。専門は、入学者選抜方法論。高大接続における入試制度設計、個別選抜におけるCBT活用の研究に取り組む。文部科学省大学入学者選抜における多面的な評価の在り方に関する協力者会議(2020.4.17)では「佐賀大学の取り組み」を報告。主著に、「大学入試における面接評価」『大学入試がわかる本』(分担執筆、岩波書店、2020年)、『大学入試の公平性・公正性』(編者、金子書房、2021年)など。

※所属・役職は2022年3月時点のもの

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